NSCR(南北通勤鉄道)第1編成 J-TREC出場

2024年の部分開通(Valenzuela~Malolos)を目指して建設が進められているNSCR(North-South Commuter Railway、和名:南北通勤鉄道)向けの車両の第1編成が、2021年10月18日~21日に総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所を出場し、横浜港まで陸送された。

NSCRは本邦技術活用条件(STEP)適用案件として日本の円借款によってマニラ近郊で建設・整備が進められている鉄道ネットワークである。DOTr(フィリピン共和国運輸省)が施設や車両を保有し、運行はPNR(フィリピン国鉄)が行う。NSCRはTutuban(トゥトゥバン)~Malolos(マロロス)~Clark International Airport(クラーク国際空港)を結ぶ全長約90kmのClark(クラーク)線(ClarkからNew Clark City方面への延伸計画もあり)と、Tutuban~Calamba(カランバ)間を結ぶ全長55.6kmのCalamba(カランバ)線の2路線から成る。前者は既存のPNRの路線であるNorth Railのルートと、後者はSouth Railのルートと重複する(NSCR開通後の既存PNR路線の処遇は未定だが、少なくとも通勤輸送はNSCRに移行される可能性が高い)。前者は第I期区間としてTutuban~Malolos間37.6kmが、第II期区間としてMalolos~Clark International Airport間約51kmが整備される予定で、さらに第I期区間のうちValenzuela~Malolosが2024年に先行開業予定である。NSCRは全区間が複線(右側通行)、架線集電方式による直流1,500V電化、軌間は1,435mm(標準軌)で整備される(既存のPNRの路線は非電化、軌間1,067mm(狭軌))。

第I期区間(Tutuban~Malolos)向けの車両全104両(4M4Tの8両編成13本)はJ-TRECにて製造が進められている。日本の官民が連携して策定したアジア向け都市鉄道システム標準仕様「STRASYA」(STandard urban RAilway SYstem for Asia)※1に準じた車両となっており、20m級4扉車である(車体長は19,500mm(連結面間距離20,000mm)、車体幅は裾絞りなしの2,950mmで、同じくSTRASYA規格のインドネシア・MRT Jakartaの車両と長さ・幅は共通である)。最高速度は120km/h。車体は軽量ステンレス製で、J-TRECの次世代ステンレス車両のブランド名である「Sustina」を名乗る。前面形状や先頭車のドア配置等から近年のJR東日本の通勤形・一般形電車(E233系・E235系等)をベースにしていると思われる。

※1:「STRASYA」は2004年に策定され、車両のほか軌道、駅、保安システム、車両基地等についても標準仕様を定めている。車両の項目では、標準仕様は車体長19,500mm(連結面間距離20,000mm)、車体幅2,950mm、屋根高さ3,655mm(パンタグラフ・冷房装置の高さを除く)、床高さ1,150mm、車体は軽量ステンレス製、客用扉は片側4つ(扉幅1,300mm)、車両制御方式はVVVFインバータ制御…等と細かく定められている。なお、必ずしも当仕様に完全に準拠した車両とする必要はなく、案件ごとに別途定められた仕様がある場合はそちらを優先することとなっている。

編成はMalolos寄りから順にTc-M1A-M2A-T1-T2-M1B-M2B-Tc'から成り、車両番号はMalolos寄りからEM10011L - EM10011M - EM10012M - EM10011T - EM10012T - EM10013M - EM10014M - EM10012L (車両番号末尾がL:制御車、M:電動車、T:付随車)。

J-TRECとしては、タイ・バンコクパープルライン向けの車両に次いで2番目の海外輸出車両である。また、同社の前身である東急車輛製造は1955年~1976年に数回に亘ってPNR(1964年までは前身のMRR(Manila Railroad Company))向けの気動車を納入している。

※横浜港はすべて港湾施設敷地外より撮影


2021年10月21日未明、総合車両製作所(J-TREC)横浜事業所の正門前。まずはブルーシートに覆われた台車が同事業所を出発した。


工場を出発する、中間電動車(M2B車)のEM10014M。シングルアーム式パンタグラフを1基搭載している。




次いで出発する、Tutuban寄り先頭車(Tc'車)のEM10012L。


深夜の道路をゆっくりと走行する2両。深夜にもかかわらず多くのギャラリーで賑わった。


街灯に照らされる、出場したばかりのEM10012L(右手前)とEM10014M(左奥)。




EM10012Lの両側面。前面の形状はE233系に類似している(但し前面窓の寸法はE233系と異なり、ガラス自体もNSCR向け車両は平面ガラスである。行先表示器周辺と乗務員室部分でガラスが分割しているのはE235系に類似している)。また、E217系以降の車両で見られるクラシャブルゾーンを備えている等、当車両はJR東日本の近年の通勤形・一般形電車(E233系・E235系等)をベースにしていると思われる。なお、車体は幅2,950mmのストレート車体で、裾絞りがない分E233系・E235系等よりも幅広である。




先頭車の前面には向かって左側にDOTr(運輸省)、右側にPNR(フィリピン国鉄)のロゴマークが貼付されている。当車両はフィリピン共和国運輸省に納入し、運行はフィリピン国鉄が行う。


前面窓には車種、車両の向き(写真はTutuban寄りを示す)、車両番号等を示す紙が掲示された。また、その上には列車番号を表示すると思われるLEDが設置されている。


先頭部側面(幕板)にある、J-TRECのロゴ。


EM10012Lの車両番号表記。
その下(車体裾部)には、EN(欧州規格)のリフティングポイントを示すマークが記されている(左が4点支持の場合のリフティングポイント、右が片側支持の場合のリフティングポイントを示す)。


各車両の側面にもDOTr及びPNRのロゴマークが1ヶ所ずつ掲示され、さらに両先頭車にはSustinaのロゴマークも入る。
マニラLRT1号線の3rd Generation Train(3G)と同様、側窓は上部内折れ式の分割窓となっている(車端部及び乗務員室直後の扉間の窓は1枚固定窓)。
ドア窓はJR東日本の209系・E231系等と同等の形状(接着式単板窓)である。


J-TREC横浜事業所の専用線の踏切を低速で渡る。


京急の金沢文庫第2踏切を渡る。金沢検車区に留置されている京急の赤い電車と、NSCRの赤い電車が1枚の写真に収まった。




姫ノ島公園前交差点をダイナミックに左折し、国道16号へ入る。


国道16号泥亀バイパスを行く。かつて道路沿いにあった京急サニーマート(A・B棟)は2019年に解体され、広大な跡地が広がっている(写真奥)。


国道16号を行く車の波の脇に佇むNSCRの車両。




点検のため停車中。


国道16号を北上する。




深夜の国道357号を快走。




マニラのSkyway(高速道路)の高架を彷彿とさせる、首都高の高架をバックに走る。




翌朝。運ばれてきた状態のままで港に留置されていた。


先に運ばれた6両は架台(ウマ)の上に仮置きされている。


クレーン2基で吊り上げられるEM10014M。


台車入れが完了し、マーフィートレーラーに載せられたEM10014M。写真右奥には、海外譲渡のマルタイ(中古車)が3両留置されている。




EM10014Mに次いで台車入れのためクレーン2基で吊り上げられるEM10012L。


台車の上に慎重に車体を下ろす。


車体と台車の結合作業中。




マーフィートレーラーへの積載のため、車体と台車を一体化して再度吊り上げ。



吊り上げられた車両の下にマーフィートレーラーを挿入。


マーフィートレーラーの上に車体を下ろしていく。


24tフォークリフト(三菱ロジネクスト FD240)に牽引され、港湾内を移動するEM10012L。




台車入れが完了し、完成形となったEM10012L。クラシャブルゾーンが設けられた車体(JR東日本の通勤形・一般形電車では近年標準的だが、同構造の車両が海外に輸出されるのは初)や、乗務員室直後の派手な塗装が目を引く。側面の行先表示器は各車両とも片側2台設置されており、先頭車は車両を真横から見て設置位置が左右非対称である(中間車は左右対称)。車側灯は各ドアの上に設置され、DOTrがアップした試運転の動画によるとドア閉時には点滅する(ドアチャイムはJR東日本等で標準の3点チャイムの模様)。冷房装置は大容量のものを2台搭載。台車はボルスタレス台車で、E233系やE235系等の台車に類似しているように見えるが、標準軌台車のため幅が異なる。なお、車両前面にスカートは非設置。


港湾内の留置場所へ移動するEM10012L。


EM10012Lの移動完了後、EM10014Mも移動開始。


EM10012Lの右隣に移動するEM10014M。


移動完了。マルタイ3両と並べられたNSCRの2両。


2両の作業完了後、前日までに搬入された先行6両も順次台車入れが行われた。





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