タイ国鉄譲渡キハ183系 営業運転開始

2021年にタイ国鉄(SRT)に譲渡された、JR北海道のキハ183系17両(キハ183-104・208~212・215・218・219、キハ182-22・23・29・30・39~42)。2021年11月16日~19日にかけて室蘭港崎守埠頭にて船積みが行われ、同年12月6日にタイ・レムチャバン港に着岸した後、全車両が2022年1月21日・22日の2日に分けてバンコクのマッカサン鉄道工場(Makkasan Workshop)に入場した。

このうち、2022年4月7日にキハ183-219+キハ183-208の2両で初の本線試運転(マッカサン~チャチュンサオ間)を行い、同年6月には第1編成が各種改造を終えて竣工。2022年8月にキハ183-219+キハ182-22+キハ183-208の3両で、翌月の2022年9月からはキハ183-219+キハ182-22+キハ182-29+キハ183-208の4両で試運転を開始した。その後も各路線で試運転が続けられ、2022年12月24日より営業運転を開始した。タイ国鉄が販売する観光列車(全車指定・現地での案内つき)として、週末を中心に運行されており、行先は週末ごとに異なる。タイ国鉄のオンラインチケット予約システム「D Ticket」で販売されている。

主な改造内容は、台車・輪軸の1,000mmゲージ化対応、運転台上部の前照灯・ホイッスル・列車無線アンテナ等の撤去、屋根上の新鮮外気導入装置の撤去、運転台下部への前照灯追加、乗降扉下部へのステップの追加、ドアランプ・ドアブザー追加、運転台へのドア開閉ボタン追加等である。塗装はJR北海道時代のものと同一色で再塗装され、各種日本語表記も意図的に存置(一部は追加)された。


2023年6月には第2編成が竣工し、同月29日にキハ183-218+キハ182-42+キハ183-211がマッカサン~チャチュンサオ間で試運転を行った。2023年9月16日よりキハ183-218+キハ182-42+キハ182-41+キハ183-211の4両編成で運行を開始した。第2編成は第1編成と一部施工内容が異なり、側面の行先表示器が全車両ともLED化され(第1編成はステッカー)、前面の愛称表示器もオリジナルの幕が入ったものが使用され、列車の行先によって表示内容を変えている(第1編成はステッカーによる固定表示)。運転台下に増設された前照灯のガラスも第1編成と寸法が若干異なり、ガラス自体も無色のものが使用されている(第1編成は青みがかっている)。

関連ページ:「タイ国鉄譲渡キハ183系-室蘭港船積み」


運行開始直後の第1編成(キハ183-219+キハ182-22+キハ182-29+キハ183-208)。室蘭港に長年留置されていた際は潮風にさらされて外板が痛んでいたが、マッカサン工場で徹底的に修繕された。JR北海道時代と同じ色で再塗装され、まるで新車のような美しい姿を取り戻した。写真はキハ183-219。尾灯下はJR北海道時代は車両の最高速度の「110」と記されていたが、再塗装された際に車両番号表記(183-219)に変更された。運転台上部の前照灯はタイ国鉄の車両限界の都合により撤去され、代わりに運転台下部に前照灯が増設された(なお、当初は形状が異なっていた)。

2022年12月 マッカサン工場にて(職員立会いの下、許可を得て撮影)


第1編成の反対側の先頭車のキハ183-208。第1編成は前面の愛称幕部にステッカーが貼られ、編成前後でデザインが異なる。尾灯下の表記はキハ183-219と同様、車両最高速度表記(110)から車両番号表記(183-208)に変更された。

2022年12月 マッカサン工場にて(職員立会いの下、許可を得て撮影)


再塗装後も忠実に再現された車両番号表記と、その上に追加されたSRTのロゴ(SRTロゴの追加は、第1編成では中間車のキハ182-22とキハ182-29のみ)。


キハ183-208に追加表記された、SRTのロゴとJR北海道のロゴ。


側面の行先表示器部分はステッカーが貼られ、「特急オホーツク マッカサン工場」とあえて日本語で書かれている。


運転台上部の様子。前照灯撤去跡は綺麗に埋められている。また、運転台上のホイッスルや運転台後方に設置されていた列車無線アンテナも台座を残して撤去されている。


客用扉下に新設されたステップ。


妻面。銘板の文字及び縁部分は色差しされ、「札ナホ 定員68」表記も一般客から目立ちにくい場所であるものの再塗装後も再表記された。


妻面の各種表記も、オリジナルと若干フォントが異なるものの再現された。


キハ183-219(第1編成1号車)の車内の様子。JR北海道時代と大きな変化はない。


デッキとの仕切り扉の上には、「マッカサン工場」と書かれたステッカーと車両番号表記ステッカーが追加された。また、号車札はタイ語と英語が追記されたものに変更された。


キハ182-22(第1編成2号車)の車内の様子。


キハ182-22(第1編成2号車)のデッキ仕切り。


キハ182-29(第1編成3号車)の車内の様子。


キハ182-29(第1編成3号車)のデッキ仕切りは第1編成の車両の中で唯一、木目調である。扉も窓が小型のもので、原形の姿に近い。


キハ183-208(第1編成4号車)の車内の様子。


座席番号のステッカーはJR北海道時代のものをそのまま活用している。


デッキ仕切りの広告枠には、日本語で書かれた広告が入っている。


日本語で作成された広告は複数種類が存在する。タイ人は読めないため、日本人ウケを狙ったのか、もしくは日本語表記をあえて追加することで日本からの譲渡車であることをアピールしているのか。いずれにしても、日本人としては嬉しく感じる。


車内案内。マッカサン工場で新たに作成されたものだが、タイ語表記ではなく、あえて日本語と英語で表記されている。このように、タイ国鉄で復活したキハ183系は、日本で活躍していた時よりもむしろ日本語表記が増えている印象を受ける。


ドアステッカーはJR北海道時代のものが存置されている。タイ全土を旅するモジャくん。


トイレの様子。綺麗に整備されている。タイに車両が到着した当初、古い車両にもかかわらずトイレの設備が立派であることを驚く現地の報道・記事も見かけた。


客室内の便所使用知らせ灯には、トイレのマークが追記された。


キハ183-219の運転台。各種スイッチ類は英語表記が追加された。

マッカサン工場にて(職員立会いの下、許可を得て撮影)


運転台のメーターパネルの左側に、ドア開閉用ボタンが新設された。これにより、運転士によるドア操作が可能となった。


運転台に追加設置された、前照灯の切換スイッチ(左のスイッチが下部前照灯用、右が上部前照灯用)。


マッカサン工場で改造待ちのキハ183-209。

職員立会いの下、許可を得て撮影


同じくマッカサン工場で改造待ちのキハ183-104。同車はタイに渡った唯一のキハ183系100番台(先頭車化改造車)である。

職員立会いの下、許可を得て撮影


マッカサン工場の内部の様子。改造待ちの車両の他、工場建屋内では第2編成となる車両の整備が進められていた(写真左下)。

2023年5月撮影


ラチャブリー(Ratchaburi)往復のツアーに参加してみた。キハ183系往復乗車+現地でのバスツアー+各種食事が込みで、ツアー価格は1人1,499バーツであった。
朝6時にフアランポーン駅の4・5番線ホーム上に設けられた受付に集合。ツアー参加者はオンラインで購入したチケットで首下げ式の参加証を受け取る。


フアランポーン駅に隣接する気動車区で出区点検中のキハ183系第1編成。


フアランポーン駅に入線する、本日の主役。


フアランポーン駅5番線に入線した、ラチャブリー行きのツアー列車。列車番号は945。
ホームにキハ183系が入線すると、車両と記念撮影するツアー参加者の人だかりが瞬く前にできた。なお、ツアーの客層の大半はタイ人の中高年であった。


列車は6:50にフアランポーン駅を発車し、バンスー駅でも客扱い(バンスー7:10発)をしてから暫く走行すると、特製の弁当箱に入った朝食が全員に配られた。蓋にキハ183系や今回のイベント内容が描かれたこの特製弁当箱はツアー参加記念に持ち帰ることが出来る。弁当箱の柄や記念グッズの内容はツアーの内容により異なる。車内では今回のツアー内容やキハ183系の紹介等がタイ語で放送される。


弁当の後に配られた、「KIHA183」の焼き印が入った特製のお菓子。


2時間強乗車して、8:59に南線のChulalongkorn Bridge駅(チュラロンコン橋駅)に到着。ここで全員下車する。


乗客が全員下車した後、キハ183系はゆっくりとバックしていく。


駅に隣接しているChulalongkorn Bridge(チュラロンコン橋)の上で停車。ここで記念撮影タイムとなる。
チュラロンコン橋は鉄道・道路併用橋として1901年に開通。太平洋戦争中の1945年2月に連合国軍によって爆破され、同年10月に再建。1961年に改修された歴史ある橋である。現在はその隣に、南線複線用の斜張橋が建設中である。


チュラロンコン橋の上で停車中のキハ183系。本線上での記念撮影タイムである。


記念撮影タイムが終わると、キハ183系はBan Khu Bua駅へ回送される(同駅で夕方まで留置)。


Chulalongkorn Bridge駅からは5台のバスに乗り換えて移動。5台のバスには「KIHA 1」~「KIHA 5」と掲示されており、キハ183系の号車ごとに分かれて乗車する(キハ183系では全車指定席だが、バス内の座席は自由席)。なお、バスは警察車両の先導で走行していた。


バスツアーで最初に訪れたのはラチャブリー国立博物館。同博物館の庭園でショーを鑑賞する。


昼食を食べたのち、ワットカノン内のナンヤイ劇場で影絵人形劇を鑑賞。


続いて訪れた陶器店にて、陶器の作り方の様子を見学。希望者は小型の陶器にオリジナルの絵付けを行い、それを記念品として持ち帰ることが出来た。


最後に訪れたBan Khu Bua市場では、伝統品やお土産、飲食物等の買い物を行う時間が設けられた。


ラチャブリー駅にバス到着後、Ban Khu Bua駅からのキハ183系(送り込み回送)がラチャブリー駅に入線。

ラチャブリー駅付近にて


複線化工事・ホーム改良工事真っ最中のラチャブリー駅に停車中のキハ183系。
復路もキハ183系に乗車してフアランポーン駅に戻る(ラチャブリー18:00発→バン・バムル19:47着→バンスー20:07着→フアランポーン20:30着)。


復路の列車でもラチャブリー駅発車後に軽食が配られる。


日没後のBan Pong駅付近を高速で走行する。

(別日に撮影)


バンスー駅に到着。


長旅を終えて、終点のフアランポーン駅に到着。この日は3番線に入線した。


バンスー駅へ入線するキハ183系第1編成。この日はペチャブリー(Phetchaburi)への観光列車として運行。キハ183-219のヘッドマークは2023年3月から特急オホーツクを模したデザインのもの(ステッカー)となっている。


バンスー駅を発車するキハ183系。


終点のペチャブリー駅に到着。こちらも南線の他の駅と同様、駅改良工事が進んでいる。


ペチャブリー駅付近の側線(引上線)へ回送される。


ペチャブリー駅付近の側線に翌日夕方まで停泊。隣接する歩道橋から、屋根上をじっくり観察することが出来た。運転台上部の前照灯・ホイッスル・列車無線アンテナの撤去に加え、新鮮外気導入装置が全車両撤去され、屋根上がJR北海道時代よりすっきりした印象を受ける。


早朝のフアランポーン(Hua Lamphong / Bangkok)駅に入線するキハ183系。この日はフアランポーン駅朝6:50発のラチャブリー(Rachaburi)への観光ツアー列車として運用された。

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バンスー(Bang Sue Junction)駅に入線する、ペチャブリー(Phetchaburi)行きのキハ183系観光列車。車体・床下機器とも徹底的に修繕され、車体はJR北海道時代と同じ色で再塗装。まるで新車のような輝きを取り戻した。

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ペチャブリー(Phetchaburi)駅で客扱い終了後、同駅の側線(引上線)に向けて回送されるキハ183系。

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Chulalongkorn Bridge(チュラロンコン橋)でキハ183系ツアー客が全員降車して記念撮影タイムの後、Ban Khu Bua駅へと回送されるキハ183系。

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オニカッコウ(Asian Koel)の鳴き声が響く中、ラチャブリー(Rachaburi)駅へと送りこまれる回送列車。当駅より客扱いしてフアランポーン(Hua Lamphong / Bangkok)駅へと向かう。

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日没後のバーンポーン(Ban Pong)駅付近を高速で走行するキハ183系。前照灯はすべて点灯している。

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バンスー(Bang Sue Junction)駅でのドア開閉の様子。タイ国鉄マッカサン工場での改造時に、各ドアの鴨居部にドアランプが追加され、さらにドア開閉時に警告音が鳴るように改造された。

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関連ページ:「タイ国鉄譲渡キハ183系-室蘭港船積み」

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