釜石鉱山-電磁誘導カート

釜石鉱山の550mL坑道(=海抜550m坑道。mL=メートル・レベル)は、坑口から約3kmの地点に「仙人秘水」の採水場があり、現在メインで使用されている坑道である。

当区間はかつて、バッテリーロコ牽引のトロッコ(軌間762mm)が運行されていたが、車両や軌道のメンテナンス難等により2019年に運行を終了。トロッコに代わり新たに導入されたのが、鉱山では日本初導入となる電磁誘導カートである。運行開始に先立ち、レールや枕木をすべて撤去し、路面を舗装して誘導線を敷設する等の徹底的な改修が行われた上で、2021年10月よりカートによる運行を開始した。

ヤマハ発動機製のカート(ランドカー)が使用されている。電動式(バッテリー駆動)で、5人乗りの車両が5台導入された(加えて、保守用のカートも2台導入されている)。坑道での自動運転時の最高速度は7km/hで、全区間の所要時間はノンストップの場合で片道20分強である。カートの導入によって騒音や振動が大幅に減少し、かつてトロッコの時代は走行中に同乗者同士の会話もままならかったそうだが、現在は静かな走行環境となり、会話をしながら乗車することが出来るようになったという。車両には自動追従機能を備えており、5台で運転する場合は、そのうちの3台(先頭・3台目・最後尾)にのみ係員(安全運行員)が乗車すればよく、5台で最大22名(+係員3名)が乗車することが出来る。カートは進行方向が固定のため、採水場の先の終端部に転回場(ループ線)があり、乗客を降ろした後にそこで転回する。

不定期ながらも、年に数回ほど一般向けにも公開し、カートに乗車して当坑道の見学をすることが出来る。見学時は、往路は採水場までまずはノンストップで向かい、復路で途中の鉄鉱石採掘場とグラニットホール(地下音響実験室)の2箇所に立ち寄るのが一般的なルートである。企業や学校(社会科見学)向けの公開も行っているとのことだ。

※釜石鉱山株式会社の多大なるご協力のもと撮影。


仙人秘水製造工場の近くにある、550mL坑道の電磁誘導カートの乗降場兼車庫の建屋。


乗降場で待機している電磁誘導カート。ヤマハ発動機製のランドカーである。鉱山での採用は日本初。坑道内の漏水対策で、車両の側面にはファスナー付きのエンクロージャーが取り付けられている。
この日は2台での運行であった。カートは車両ごとに色が異なり(赤・黄色・青・緑・黒)、車両ごとに愛称名も付いている(前面中央部には愛称にちなんだイラストが描かれている)。先頭の赤いカートは「もみじ号」。


後続の黄色いカートは「はまゆり号」。


カートを後ろから。なお、この位置はかつてバッテリーロコの保守基地があり、軌間762mmのレールを埋めた跡が残っている。


カートの内部。フロントシートは2人掛け、リアシートは3人掛けである。ハンドルは電磁誘導による自動運転時は自動で回る。フロントガラスの前には観光案内用のモニター(LCD)が設置されている。


乗降場に展示されている、釜石鉱山の鉱脈と仙人秘水の源泉地の案内図。
これから、この「海抜550m坑道」(=550mL坑道)を約3km進み、北上高地の大峰山(標高1,147m)の直下にある、仙人秘水の採水場へと向かう。


550mL坑道の坑口(通洞坑)。坑口に向けて延びる線は誘導線で、電磁誘導カートはこの誘導線に沿って自動で走行する。誘導線は電磁誘導カートにとってまさに軌道の役割である。
この誘導線がある位置に、かつてトロッコの軌道(軌間762mm)があった。


550mL坑道の内部。カート運行に先立ち、軌道を撤去し舗装と誘導線の埋設が行われた。鉱山の坑道内の舗装は前例がほとんどなく、難工事だったとのことである。


走行中は車内のモニター(LCD)に釜石鉱山や仙人秘水に関する案内が表示され、併せて自動案内放送も流れる。これらは走行位置検知によって自動で動作する。


坑道内部は幾重もの分岐が確認でき、かつての繁栄ぶりを垣間見れる。分岐の大半は柵で閉ざされている。


坑口より2,000m地点を通過。前述の通り、550mL坑道で現在主に使用されている区間は約3kmである。


走行路の脇は湧水が川のように流れている。誘導線は終端部のループ線区間を除いて1本で、すれ違いできる区間はない。


坑口から約3km、仙人秘水の採水場に到着。


採水場から湧き出る「仙人秘水」の源水。試飲することが出来る。
坑内の湧水は、当時の鉱員たちが日頃の活力を出すために好んで飲んでいたと言われている。湧水の事業化に先立ち採水箇所の候補は坑内の至る所にあったが、最終的に味の良さや坑外への搬出のしやすさ等を総合的に考慮し、現在の採水場所に定まったとのことである。


「仙人秘水」は1989年に日本初の非加熱処理のナチュラルミネラルウォーターとして販売を開始。「仙人峠の仙人が飲んでいる秘密の水」から「仙人秘水」と命名された。
天然弱アルカリ性の軟水で、のどごしの柔らかさは鉱員の健康を保つ秘訣でもあった。主要な国際品質機関の一つであるモンドセレクションから優秀品質最高金賞をこれまで何度も受賞している。

※写真提供 釜石鉱山株式会社


当サイト管理人も「仙人秘水」を定期購入しており、毎日愛飲している。
段ボール箱上に並べた4つのペットボトルは当方が所有する「仙人秘水」のバリエーション。左から従来のラベルデザイン、2023年7月以降製造分のラベルデザイン、企業向け(日本製鉄株式会社向け)ラベルデザイン、試飲用ペットボトル(ラベルは「仙人秘水DAYS」向けと同一)。


釜石鉱山の当採水場からの湧水を活用した製品のラインナップ。ミネラルウォーター「仙人秘水」に加え、無印良品の化粧水(スキンケアシリーズ)、スーパー保存水、クラフトビールの「仙人秘水BEER」、日本酒の「仙人郷」等に使用されている。


採水場に隣接する、「仙人秘水」の旧製造工場(1989年~2009年)。当工場が現役だった際は、採水場からの源泉をこの工場ですぐにボトル製品化し、坑外にトロッコで搬出していた。
運搬の効率化等を考慮し、2009年からは坑外に製造工場を移転。採水場の湧水箇所の岩盤に直接ステンレス管を差し込み、湧水を空気に触れることなく製造工場まで送水している。また、工場移転と同時に、これまで販売していた1,100ml品に加え、500ml品の製造を開始した。


採水場で乗客を降ろしたカートは、回送でさらに坑道の奥へと進んでいく。この100m程先に方向転換のためのループ線がある。2台目は自動追従機能を使用して無人運転。


方向転換を終えて戻ってきた。


採水場の見学と源水の試飲を終えた乗客は再びカートに乗車し、これまで来た道を戻っていく。復路は鉄鉱石採掘場とグラニットホール(地下音響実験室)の2箇所に立ち寄る。
写真は坑口から2500m地点。


坑内の解説。水平坑は海抜250m~950mの間で基本的に海抜50m間隔で掘削されており、掘進された坑道の全長は1,000kmに及ぶ(直線距離にすると、釜石市から大阪市までの距離に相当)。
現在主に利用している坑道は海抜250m、350m、550mの3つであり,特に当カートが走行している550mL坑道がメインの水平坑である。


入口から約1.5kmの地点にある、鉄鉱石採掘場跡で途中下車。


鉄鉱石採掘場跡の様子。1993年まで大規模な採掘が行われ、採掘された鉄鉱石は主に現:日本製鉄の各製鉄所に出荷していた。


鉄鉱石採掘場跡に展示されている運搬車。狭い坑道内を双方向に安全に運転するため、運転席が横向きに設置されているのが特徴。


釜石鉱山で採掘された鉱石の展示。鉄鉱石のほか、白色石灰石、柘榴石等も採掘されていた。鉄鉱石は磁石がくっつくほどの強い磁性を持っており、良質な鉄を作ることが出来たという。


発破作業現場の様子(再現)。白い丸が書かれた印の位置にダイナマイトを仕掛けて発破していた。


鉄鉱石採掘場跡の見学ルートの最も奥にある立坑。550mL坑道で採掘した鉱石を350mL坑道の外にある選鉱場に運び出すため、この立坑から鉱石を落下させていた。
現在は海抜400m付近から下は水没している。見学者が立坑に石を投げこむと、石が着水するまで約10秒を要した。


再びカートに乗り込み、出口(坑口)方向へと向かう。


続いて坑口から約1kmの位置にある、グラニットホール(地下音響実験室)の前で途中下車。


グラニットホールへと入る。


グラニットホール(地下音響実験室)の内部。ここは元々坑内の従業員の坑内事務所兼休憩所だったが、1990年代に某企業で花崗岩の中の音楽ホールを作る構想が持ち上がり、その基礎データを得るために釜石鉱山の既存の空間を拡幅し、この実験場が作られた。この花崗岩で覆われた空間は、吸音率が低く、残響が長く残るといったデータが得られ、完成後はコンサートやレコーディングに利用された。


グラニットホールで実際に音楽を流して、音の反響具合も確認することが出来た。

グラニットホールの近くにある佐比内斜坑。800mL坑道まで続いており、軌道も残っている。


再びカートに乗り、帰路へ。坑道外のカート乗降場を目指す。日鉄鉱業グループで広く愛唱された歌「鉱山野郎」を聴きながらカートは進んでいく。


ようやく遠くに出口の光が見えてきた。


「鉱山野郎」の歌を聴きながら坑口を出る。


坑口を出たカートは、誘導線に沿って乗降場兼車庫の建屋へ進む。


一番最初にカートに乗車した、乗降場兼車庫に到着。


釜石鉱山550mL坑道(海抜550m坑道)で運行している、ヤマハ発動機製の電磁誘導カート(ランドカー)の全区間前面展望。従来のバッテリーロコ牽引のトロッコ(メンテナンス難等により2019年に廃止)に代わり、2021年10月より運行を開始した。
釜石鉱山は最盛期は総延長約1,000kmもの坑道が張り巡らされていた。現在不定期ながらも一般にも公開しているのは、550mL坑道のうち坑口から仙人秘水採水場までの約3km。電磁誘導による自動運転カートを坑道に採用したのは日本で初である。カートは電動式(バッテリー駆動)で、5台が導入された。カート運行にあたり、トロッコのレールや枕木をすべて撤去し、路面を舗装した。 往路はノンストップで走行し、所要時間は約21分。自動運転時の坑道内での最高速度は7km/h。カートは進行方向が固定のため、採水場の先の終端部に転回場(ループ線)があり、乗客を降ろした後にそこで転回する。

※AIにより乗客の声を消去したため、若干音声が不自然なところがあります。あらかじめご了承ください。
※釜石鉱山株式会社の全面ご協力のもと撮影。

4K Video


復路は鉄鉱石採掘場とグラニットホール(地下音響実験室)の2か所で停車し、それぞれで降車して見学した後、出口へと向かう。自動運転時の坑道内での最高速度は7km/h。最後にカートの自動放送から流れる歌は、昭和30年代から日鉄鉱業の鉱員の間で歌い続けられてきた「鉱山野郎」。

※AIにより乗客の声を消去したため、若干音声が不自然なところがあります。あらかじめご了承ください。

※釜石鉱山株式会社の全面ご協力のもと撮影。

4K Video


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