2019釜山国際鉄道技術産業展

Tweet

釜山国際鉄道技術展は、2003年から釜山の「BEXCO」で隔年で開催されている、韓国で唯一の鉄道関連の専門展示会である。東アジアの同種の展示会では、中国・上海にて2002年より開催されている「上海国際軌道交通展覧会」(Rail+Metro China)に次いで歴史が長い(日本では2010年より、千葉県の幕張メッセにて「鉄道技術展」が開催されている(2011年からは隔年開催))。

第9回の開催となる2019年は6月12日(火)〜15日(土)の4日間で開催された(最終日のみ一般参加可能で、その他の日は企業向け)。会場は「BEXCO」第1展示場。今回は韓国国内企業107社、海外企業58社の、合計で世界23カ国165社の企業が出展。歴代最大規模である939個のブースが設けられ、鉄道車両や軌道、鉄道関連のインフラ・設備・エンジニアリングなどの様々な製品や技術が展示された。

「釜山国際鉄道技術展」の会場である、釜山市海雲台区の国際コンベンションセンター「BEXCO」。
BEXCOの正面に掲げられた、「2019釜山国際鉄道技術産業展」の垂れ幕。
BEXCO1階(第1展示場1・2ホール)の会場入口。
会場入口に掲げられた、出展企業一覧とブース配置図。今回は23カ国165社による939ブースが設けられた(歴代最大規模)。
会場の様子。写真は現代ROTEMの展示で、過去の展示会に続いて参加企業の中で最も大規模な展示スペースを設けた。
現代ROTEMのブースに展示された、チュニジア国鉄(SNCFT;Société Nationale des Chemins de Fer Tunisiens)向けの電車。 この車両は、2016年にチュニジア国鉄から受注した低床式電車で、2019年8月に第1編成を納入予定である。台車間が低床で、主要電装品は屋上に設置されている。
4M0T(MC1-M1-M2-MC2)の4両編成で、28編成(112両)製造予定。車両寸法は長さ26,500mm(先頭車は27,470mm)×幅2,840mm×高さ3,600mm。最高速度は140km/h。車体は鋼製。集電構造は交流25,000V架線集電式。
車内の様子。3扉車で、ドア間が低床構造となっている。車両中央部の天井にLED式案内表示器が設置されている。
車端部(台車上付近)は高床で、3段のステップで接続されている。座席は車端部が固定クロスシート、それ以外がロングシート。
乗務員室付近の様子。
各ドアの鴨居部に設置されている、マップ式案内装置。駅名表記はチュニジアの公用語であるアラビア語と、ローマ字が併記されている。
ドアボタン。ボタンの周りのアラビア語表記が目を引く。
水素燃料電池試験車両のモックアップ。水素燃料電池試験車両は2019年から開発開始し、2020年までに試作車が製作される予定である。グループ会社(親会社)の現代自動車の水素燃料電池技術を応用する計画。
現代ROTEMが、韓国で初めて国産化開発に成功したPMSM(永久磁石同期電動機)と、PMSM用のVVVFインバータ制御装置。ソウル交通公社6000系(ソウル地下鉄6号線)633編成に試験搭載しており、2019年5月29日より営業運転に投入されている。

なお、釜山都市鉄道1号線では、2018年より東芝製PMSMを搭載した車両が運行を開始している。また、北朝鮮では金策工業総合大学がPMSMを開発し、平壌地下鉄の1号形に搭載している。
(現代ROTEM・金策工業総合大学のPMSM共に、磁励音は日本でよく聴けるものとは異なり、誘導電動機(IM)を用いたIGBT素子VVVF制御車両のものに似ている。)
現代ROTEMのトラムの紹介ブース。
現代ROTEMが開発する、トラムの形態紹介。
上から有架線トラム、無架線ESS(Energy Storage System;電力貯蔵システム)トラム、無架線水素電池トラム、有/無架線ハイブリッドトラム。現代ROTEMは韓国内に低床式トラムを納入した実績はないが(2019年6月現在)、海外ではトルコのイズミールに2014年に38編成、同じくトルコのアンタルヤに2015年に18編成を納めた実績がある(いずれも有架線トラム)。韓国内でも複数都市でトラムを導入する計画はある。
2019年6月12日、現代ROTEMはポーランドのワルシャワのトラム123編成分を落札したと発表した。落札金額は3,358ウォンで、2021年から納入される予定である。3連接車と5連接車の2タイプが製造され、全車両が現代ROTEMの昌原工場で製造予定。現代ROTEMがポーランドの鉄道市場に進出するのは初である。
現代ROTEMの高速列車の紹介ブース。
現代ROTEMが開発する、最高速度250km/hの動力分散式高速列車「EMU-250」の模型。実車は2020年に登場予定。前回(2017年)の釜山国際鉄道技術展では、当車両のモックアップも展示された。
「EMU-250」の動力台車の展示。台車形式は「RX2600A」。
現代ROTEMの模型展示ブース。同社が近年製造した国内外の車両の模型が展示されている。その奥には商談スペースも設置されている。
軽電鉄や都市型磁気浮上列車(都市型リニア)の模型。
現代ROTEMのVR体験コーナー。
VR体験コーナーの内部。架空のホームや、香港MTR(港鐵)のR-Stockをモデルにした車両の車内・運転台をVRで探索できる(管理人も体験した)。VRを利用すれば、新型車両製造前のモックアップ製作コストを省け、車両のデザインをVRで事前に確認することが出来、設計期間が大幅に短縮可能で、車両の保守手順を検証することができる等、数多くの利点があるとのことである。 日本の同種の展示会でVRの活用はあまり例がなく、IT先進国・韓国らしさを実感した。
VR体験者が見える映像のイメージ。体や顔の向きによって、自動で映像の向きが替わる。
「多元シス」(DAWONSYS)のブース。同社は元々、核融合電源・プラズマ電源装置・電磁誘導加熱装置等を手掛けるメーカーであったが、2017年2月15日にロウィン(ROWIN)を吸収合併し、鉄道車両製造事業にも進出した。VVVFやSIV、列車総合制御装置(TCMS)、空調装置等の電装品も、ロウィン吸収合併前から同社で製作している。
多元シス製のソウル地下鉄7号線向けの新型車両(実車)。2020年の富平区庁〜石南 間延伸に向けて、2019年に8両編成2本(16両)が導入される予定。ソウル地下鉄7号線には同社製(前身のROWIN製)のSRシリーズ(SR000系)が2011年〜2012年に導入されており、7年ぶりの同社製車両の増備となった(SRシリーズからはフルモデルチェンジされている)。前面は非貫通。また、行先表示は前面・側面とも省略され、前面には列車番号のみ表示される。車体はアルミ合金製で全面塗装(ドアはステンレス製)。
車両前面に置かれた案内板。車両基本諸元は以下の通り。

編成:8両1編成(TC1-M1-M2-T1-T2-M1-M2-TC2)
最高設計速度:100km/h
運転最高速度:80km/h
速度制御方式:VVVFインバータ制御
乗客定員:1,256名(座席:420、立席:836)/1編成基準
ドア方式:電気式ドア
信号方式:ATC-ATO
発注機関:仁川都市鉄道建設本部
運営機関:ソウル交通公社
台車。多元シス製。基本構造は韓国の通勤形電車でよく見られる、DT-50系台車ベースのもの。
妻面側。なお、連結器は前後共に未設置の状態で展示された。
車内の様子。SRシリーズでは新機軸を多数採用したのとは対照的に、今回の新型車両は大きな特徴は少なく、標準的な内装となっている。網棚は車端部以外は設置されていない。座席は同社製のソウル地下鉄2号線車両がFRP製であるのに対し、モケット張り。
ドア周り。ドアランプ(ドア脇の縦長のLED)は、同社製のソウル地下鉄2号線車両でも採用されている。鴨居部のLCDは2画面設置されている(千鳥配置)。
車端部。展示会場では車両側の冷房は作動しないため、可搬式冷房が妻面に設置された。
近年の韓国の前面非貫通の通勤形電車では標準装備となった非常用梯子。
通常はカバーで覆われており非常時以外は中身を見ることはできないが、展示会では特別に見ることが出来た。
乗務員室仕切り。SRシリーズでは小型の窓があったが、廃止された。
両車端部には多元シスの製造プレートが設置されている(2019年製)。
乗務員室内部の様子。
多元シスの商談スペースに飾られていた、同社製車両の実車・イメージ図。
左からSRシリーズ、EMU-150、ソウル地下鉄3号線新車。
左から大谷-素砂線、ソウル地下鉄2号線、ソウル地下鉄7号線の車両。
ソウル地下鉄3号線新車のイメージ図。同社製のソウル地下鉄2号線車両をベースにした車両のようである。また、パンタグラフはシングルアーム式が描かれている。
大谷-素砂線(2021年開業予定)の新車のイメージ図。
多元シスが開発する、最高速度150km/hの準高速列車「EMU-150」の外観イメージ図。3つの案が示されており、自分の名刺を入れて投票できるようになっていた。
「EMU-150」の内装案(2種類)。
宇進産電のブース。
同社が製造予定の車両のイメージ図(左から新林線(3両1編成、ゴムタイヤ式車両)、光州都市鉄道2号線(2両1編成、ゴムタイヤ式車両)、仁川都市鉄道2号線(増備車)、ソウル交通公社5号線、ソウル交通公社7号線。5号線は現代ROTEM、7号線は先述の通り多元シスも車両を納入する(ソウル交通公社は既に2号線がそうであったように、同時期に複数メーカー製の車両を導入する方針の模様)。
インドネシアのクアラナム空港鉄道(ARS Kualanamu)の車両模型。同車両はインドネシア初の宇進産電製車両。
インドネシアのスカルノハッタ国際空港APM「Skytrain」の製造の様子を放映。
自動車・工業用のバネと車のシートを製作・販売している、大円鋼業(Daewon Kang Up)のブース。鉄道用座席の見本が展示された。写真手前が特室用、その後ろの2種が一般席用。特室用の座席には電動リクライニングに加え、腰部分にマッサージ機能が搭載されていた。
通勤形電車用の座席の見本。左からプラスチック製、ステンレス製、人造皮革製。
鉄道車両部品メーカーである有眞機工産業(Yujin Machinery, LTD.)は、同社の主力製品であるパンタグラフや連結器の実物を展示した。
釜山交通公社のブース。
釜山交通公社のブースで最も人気があった、釜山都市鉄道1号線の運転シミュレーター。常時長蛇の列が出来ていた。
韓国鉄道施設公団(KR)のブース。トンネルのVRコーナーをはじめ、橋梁・トンネル建設技術等についての展示があった。
韓国鉄道技術研究院(KRRI)のブース。低床式トラムのモックアップが設置されていた。
韓国鉄道技術研究院(KRRI)の無架線低床式トラムの展示。釜山でも建設計画があるとのことである。

パンフレット
各企業のブースで無料配布されていた。写真は現代ROTEM、釜山交通公社、多元シス、韓国鉄道技術研究院、宇進産電のパンフレット。
登録カード記入台
入場に際して、この記入台で下記の「観覧客登録カード」を記入する。
観覧客登録カード
個人情報やアンケートを記入して、受付に提出する。
自動改札機読取部
前述の観覧客登録カードを提出し、入場料(一般客の場合は5,000ウォン)を支払うと、入場券代わりの紙製のバンドが渡されて入場できる。
(会場内では腕にバンドを巻く必要がある)
なお、オンラインでの事前登録も可能(事前登録の場合、無料で入場できる)。
会場内で展示されていた日本の模型(1)
今回の釜山鉄道技術産業展には日本の企業の出店はなかったが、日本の模型が一部の展示で使用されていた。
写真はHOゲージの総武線E231系(TOMIX製)をKORAIL風に塗装したもの。

LS電線のブースにて
会場内で展示されていた日本の模型(2)
ジオラマの中を2編成のKATO製東京メトロ16000系(Nゲージ)が走行していた。

多元シスのブースにて
会場内で展示されていた日本の模型(3)
低床式路面電車が走る風景を再現したジオラマ。その中に混じって見覚えのある…京成バスと東急バス。
(右側通行ですが、ドアの位置は反転してません。これですかね?

韓国鉄道技術研究院(KRRI)のブースにて

「韓国の鉄道トピックス」へ戻る

Tweet