平壌地下鉄 地下電動車1号

Tweet

「地下電動車1号」(日本では「100形」とも呼ばれることもある)は2015年に製造された、平壌地下鉄初の自国製の営業用車両である。金鐘泰電気機関車連合企業所製で、2015年に1編成が製造され、2016年1月1日より営業運転を開始した。

片側3扉で、D型に準じた15m級車両である。VVVFインバータ制御で、駆動方式は吊り掛け駆動である。モーターは国産の非同期牽引電動機を使用し、出力は150kW(朝鮮でVVVFインバータ制御・国産非同期牽引電動機を採用した車両は、朝鮮鉄道省の「先軍赤旗1号」電気機関車に次いで2例目)。なお、後に金策工業総合大学等が開発した自国製の永久磁石同期電動機(PMSM)に換装された。朝鮮半島で最初にPMSMを採用した営業用車両である(韓国では2018年に導入された釜山交通公社向けの新1000系が初)。車体は鋼製。地下の温度は通年でほぼ変わらないため冷房装置は搭載されておらず、屋根には通風口がある(モニター屋根)。

Mc-T-T-Mcから成る4両固定編成(2M2T)で、車両番号はプルグンビョル(赤い星)寄り先頭車から順に101-102-103-104と付番されている(100の位が形式番号「1」を示していると思われる)。車両ごとの乗車定員は、「101」と「104」が220名、「102」が240名、「103」が260名。

車内設備の特徴として、平壌地下鉄で初めてLCD式案内表示器が採用された。各ドアの鴨居部にLCDが2台ずつ設置されており、列車の位置・次の駅・現在日時・速度・温度・湿度・乗換案内・天気等が表示される。戸袋部にも映像を流すLCDを設置。座席配置はロングシートだが、「103」号車のプルグンビョル行き列車基準で進行方向左側の座席のみ、通路向きに斜めを向いた1人掛けのクロスシート(簡易座席)が配置されている。客用扉・乗務員扉とも引き戸式で、客用扉のドアエンジンは空気圧作動式。なお、先代のD型とは異なり、ドアは自動開閉である(D型は半自動)。

運転台はワンハンドルマスコンで、グラスコックピットを採用している(LCDが2台設置されている)。LCDはタッチパネル式を採用している(朝鮮の鉄道車両で初)。また異常事態等に備えて、車外側面及び車内には監視カメラが設置されており、運転台から映像を確認できる。

金正恩朝鮮労働党委員長が2015年10月22日に金鐘泰電気機関車連合企業所にて落成した車両を視察し、また2015年11月19日に試運転列車(凱旋〜栄光)に乗車しており、車体側面にはそのことを示すプレートが設置されている。なお、落成時はドア窓の天地寸法が現行より大きく、鴨居部の案内表示器もLED式+マップ式であり、袖仕切りの配色も異なったが、営業運転開始までに現行使用に改められている。また、当初はつり革がなかったが、営業運転開始までに設置された。大半の部品は自国製のものを使用しているとのことである。

通常は千里馬線で運用されており、外国人観光客の乗車リクエストが事前にある場合は、あらかじめ車両の運用を調整して貰えることがある。なお、革新線への入線実績もある。

革新線向けの「地下電動車2号」(4扉車)の開発も計画されている模様。

関連ページ:「【鉄道模型】平壌地下鉄−地下電動車1号」

2015年に1編成が製造された地下電動車1号。2016年1月1日に営業運転を開始し、営業運転開始時には日本をはじめ海外のニュースでも報道された。

復興にて
復興駅に停車中の、当駅始発プルグンビョル行きの地下電動車1号。
栄光駅に停車中の地下電動車1号。ドアは客用・乗務員用共に引き戸式。また、乗務員用扉の上に側面監視用カメラが設置されている。
復興駅に到着。多くの乗客が降りてくる。
復興駅で並ぶ、千里馬線の新旧車両(左:地下電動車1号、右:D型)。
復興駅に入線する、当駅始発プルグンビョル(赤い星)行きの列車。
各車両の側面には金正恩委員長が現地指導したことを示すプレートが設置されている。

敬愛する最高領導者 金正恩同志が
見てくださって 試運転を指導してくださった
地下電動車1号

主体104(2015)年10月22日
主体104(2015)年11月19日


2つの日付のうち、前者は金鐘泰電気機関車連合企業所で完成間近の車両を現地指導した日、後者は凱旋〜栄光駅間で行われた試運転を現地指導した日である。

なお、このプレートは当初違うものが取り付けられていたが、後に「最高領導者」の文字を追加した現行のものに交換された。そのため、プレートの周りは交換された跡がわずかに残る。
車内の様子。室内照明数が多く、D型と比較にならないほど明るい車内である。車内はロングシート(103号車の片側を除く)で、座席は片持ち式。表面はレザー張り。
ドア周り。各ドアの鴨居部には、平壌地下鉄の車両で初めてLCDが設置された。ドアは先代のD型とは異なり、開閉ともに自動である(D型は半自動)。なお、D型の影響からか、自動開閉にもかかわらず引き残しがある。
各ドアの鴨居部に設置されているLCD。2画面で、列車の位置・次の駅・現在日時・速度・温度・湿度・乗換案内・天気等が表示される。写真では、左側の画面でお知らせ、右側の画面で路線図と列車走行位置を表示している。左側の画面の内容は以下の通り。

     お知らせ

地下鉄道カードは地下鉄道の
すべての切符売り場で
販売しています。
現在駅表示(復興駅)と、路線図表示。
左側画面:今日の天気(表示内容:曇り時々雨、風:南東の風 3〜6m/s、最高気温29℃、最低気温27度)
右側画面:路線図(よく見ると革新線も薄く表示されている)
左側画面:「平壌地下鉄道を利用なさるお客様方を歓迎します!」
右側画面:「復興駅>栄光駅」
左側の画面では以下の通り、栄光駅での乗り換え可能路線を表示している。

   旅客路線(栄光駅)
平壌駅-蓮池洞(無軌道電車)
平壌駅-西平壌(無軌道電車)
平壌駅-万景台(軌道電車)


右側の画面では路線図と駅の周りの風景が表示される。路線図の向きは実際の進行方向に合わせられている。
LCDの製造メーカー。「アチム」の文字が確認出来、朝鮮のメーカーである「アチム(=朝)コンピューター合弁会社」製であることが分かる。
ドアは中国や韓国の地下鉄車両でよく見られるステンレス剥き出しではなく、日本の車両のように化粧板付きである。また、Hゴム支持のドア窓、窓下のドアレール、取っ手の形状等も、日本人にはどことなく馴染み深さを感じる。
戸袋部に設けられたLCDはテレビ番組等を放映。
また、LCD直下の座席は「専用座席」に指定されており、お年寄り・車椅子・身体障がい者・子供連れ等が座ることができることを示すステッカーが貼られている。
戸袋部のLCD画面。画面の下枠に「綾羅島」の文字があることから、「綾羅島情報技術社」製と思われる。
「専用座席」のステッカーの拡大。
つり革。落成時や試運転中の映像ではつり革が設置されていなかったが、営業運転開始までに設置された。
照明はカバー付き。網棚は設置されていない。
中間車の103号車の車内。103号車のプルグンビョル行き列車基準で進行方向左側の座席のみ、通路向きに斜めを向いた1人掛けのクロスシート(簡易座席)が配置されている。
103号車の簡易座席。このような座席は平壌地下鉄では初採用で、世界的にもこのような簡易座席が設置されている地下鉄車両は珍しい。
簡易座席の拡大。簡易座席は腰かけるというよりも、もたれかかるようにして使用する。座面には滑り止めが付いている。
なお、この座席のおかげで103号車の収容力(定員数)が向上しており、隣の一般的なロングシートの中間車(102号車)よりも定員が20名多い(103号車:260名、102号車:240名)。
103号車の車端部(104号車側)。貫通路は通常通り抜け禁止であるが、貫通扉自体は通常時でも施錠はされていない。
103号車の車端部(102号車側)。104号車を除く各車両はプルグンビョル側の車端部に監視カメラが設置されている(104号車は復興側車端部に設置)。
監視カメラの拡大。朝鮮製と思われる(メーカー不明)。
Mc車の乗務員室仕切り壁。窓はなく、前面展望不可。
壁の上部には監視カメラが設置されている。
三大革命展示館の重工業館2階の鉄道展示コーナーの一角にある、地下電動車1号に関する展示・解説。
地下電動車1号のパネル展示。内容は以下の通り。

自強力の贈り物−地下電動車1号

技術経済的効果性
- 直流電動機に比べて電動機製作コストを20%節約
- 牽引力と制動力、速度を牽引学的要求に合わせてコンピューターによるリアルタイム操縦を実現
- 電気ブレーキが常用で使用されており、回生ブレーキを実現して消費電力を30〜40%節約
- コンピューター現示装置のタッチパネル式による運転操作を実現して操作機構の数を減らし、地下電動車運転の利便性を企図
- LCD駅名掲示板とTVをはじめとする情報提供装置を備え、旅行の文化性向上
地下電動車1号の技術的特性

- 従来の150kW直流電動機に比べて電力消費を30%節約できる、150kW非同期牽引電動機
(※1)による牽引電動及びブレーキ制御の開発完成
- 運転室操縦盤における運転操縦とサービス設備操縦のコンピューターのタッチパネル式を実現し、世界的水準に相応した操縦方式確立
- 回生ブレーキ、抵抗ブレーキ、空気ブレーキによる世界的水準の3重ブレーキ制御完成
- 高齢者や障がい者のための専用座席を椅子の色と画像標記(=ピクトグラム)で知らせて、旅行上の便宜を保証
- LCD式運転情報表示装置を設置して、駅名のお知らせや運行路線情報、日付や曜日、天気や温度、湿度、速度等の情報を旅行者へ提供
- 車両外部と客室内部に監視カメラを設置して、運転上の異常な問題を適時に処理対策


※1(管理人追記):後に金策工業総合大学等が開発した自国製の永久磁石同期電動機(PMSM)に換装された。
換装前後の音を聴き比べると、音が異なるのが分かる。
地下電動車1号の模型。
1駅間の車内の様子。平壌地下鉄の車両で初めて運行情報装置が設置された。各ドアの上(鴨居部)にLCDが2台ずつ設置され、列車の位置・次の駅・現在日時・速度・温度・湿度・乗換案内・天気等が表示される。2015年に製造され、2016年1月1日より営業運転を開始した。

Full HD Video
栄光駅を発車する、プルグンビョル(赤い星)行きの地下電動車1号。加速時にVVVF制御の磁励音と吊り掛け駆動方式の独特の音が聞こえる。

Full HD Video
栄光駅を発車する、プルグンビョル(赤い星)行きの地下電動車1号。各ドア横の車側灯はドアが閉まる動作の際に消灯する。また、加速時に先頭車からのみVVVF制御の磁励音が聴こえることから、Mc-T-T-Mcの2M2Tである可能性が高い。

Full HD Video
復興駅を発車する地下電動車1号。この列車は回送列車で、一旦留置線に入った後、折り返しプルグンビョル(赤い星)行きとなる。

Full HD Video
復興駅に入線する、当駅始発プルグンビョル(赤い星)行きの列車。

Full HD Video

平壌地下鉄パンフレット(新)
当車両が表紙になっている。
平壌地下鉄パンフレット(革新線紹介ページ)
パンフレット撮影用とは思われるが、革新線に当車両が入線したことが分かる貴重な写真が掲載されている。
上は建設駅、下は楽園駅の写真。
平壌地下鉄パンフレット(千里馬線紹介ページ)
復興駅に2編成停車している写真が掲載されている(合成と思われる)。なお、新しいパンフレットに旧型車両の写真は掲載されていない。
記念切手(地下電動車1号デザイン)
50ウォン切手として販売されている。表面は車両形状に合わせて若干凹凸がある。

関連ページ:「【鉄道模型】平壌地下鉄−地下電動車1号」

「平壌地下鉄−車両紹介」に戻る

Tweet