長生浦モノレール

長生浦モノレール(장생포모노레일/読み:チャンセンポモノレイル)は、蔚山広域市南区の長生浦クジラ文化特区内にあるクジラ博物館(고래박물관/読み:コレバンムルグァン)とクジラ文化村(고래문화마을/読み:コレムナマウル)を結ぶ、周回軌道のスロープカーである。2018年5月18日に開通した。レール長:1,338m、運行速度:70m/分(=4.2km/h)、路線の最大傾斜は18度(=325‰)(※1)。三相交流400V電化。レール規格はD270(D=Depth。数字はレール上面から底面までの深さ(高さ)を示す)。一周の所要時間は約21分。運行時間は10:00~18:00(曜日・季節によって延長運転あり)、運賃は大人11,000ウォン(2023年1月現在)。施設運営は韓国モノレール株式会社(以下、韓国モノレール社)の関係会社である長生浦モノレール株式会社。なお、長生浦クジラ文化特区全体の運営は蔚山広域市南区都市管理公団が行っている。

車両は1両編成で、同時に最大6両が約3~5分間隔で運行されている。日本には存在しない同一軌道上を複数車両が走行する構造(※2)のため、障害物検知対策として車両の前後に障害物接触バンパーが設置され、加えて車両前方に超音波センサー、測域センサー等も設置されているのが特徴である。また、周回軌道のため進行方向も非常時や車両基地内を除いて片方向のみである。車両は2018年に5両が製造され、2020年に1両が増備された。2018年に製造された5両はドアが手動開閉式であるのに対し、2020年に製造された1両はドアが自動開閉になる等のマイナーチェンジが行われている。なお、2018年に導入された5両は当初8人乗りだったが、後に9人乗りに改造された(2020年製の1両は当初から9人乗り仕様である)。長生浦モノレールは設計上、最大8両を同時運行できる仕様である。

車両は日本の嘉穂製作所製、軌道は韓国モノレール社製である。冷房装置付きで、姿勢制御装置は無し。VVVFインバータ制御。

クジラ博物館駅とクジラ文化村駅の間に、開業当初は降車専用の「5D立体映像館駅」があったが、現在は廃止されておりホームの跡が残っている。

※1:韓国モノレール社の公式サイトの情報による。なお、嘉穂製作所の公式サイトの情報では、レール長:1,100m、運行速度:70m/分(=4.2km/h)、路線の最大傾斜は15度30分(=277.3‰)と情報に若干の差異がある。また、蔚山広域市南区都市管理公団の長生浦文化特区の公式サイトでは、軌道総延長は1.37km(=1,370m)と表示されている。
※2:スロープカーは日本では昇降機扱いであり、嘉穂製作所によると日本ではスロープカーを周回軌道で走らせることは法令上出来ない(周回軌道にすると昇降機ではなく遊戯施設扱いになる)。韓国ではそのような規制は適用されないため、周回軌道も可能である。




長生浦ゴレ路(長生浦クジラ道路)の上を横断する長生浦モノレール。


長生浦モノレールの車両は全部で6両。いずれも日本の嘉穂製作所製である。進行方向は固定で、進行方向後方側はクジラの尻尾をモチーフとしたような突起がある(車体塗装もクジラをイメージ?)。
車両前面の前照灯の間には「蔚山の中心 幸福南区」、側面には「長生浦モノレール」と書かれたロゴマークが貼付されている。係員操作用の発車ボタン、緊急停止ボタンは車外の側面先頭寄りに設置。また、障害物検知対策として、障害物接触バンパー、超音波センサー(前面窓下に左右2箇所)、測域センサー(形状的に北陽電機製のPBS-03JN?)が設置されている(測域センサーは当初前面窓下中央部に設置されていたものを、下部の障害物検知強化のため移設?)。

写真は01号車。01~05の5両は2018年製。車体の縁に電飾用LEDが設置されており、常に様々な色の光を放ちながら走行する。ドアは手動開閉式。


2020年に増備された06号車。1次車の01~05からの改良点として、ドアが自動化された。それに伴い、側窓やドアの天地寸法が1次車と比べて若干縮小され、ドア上の表示灯の位置も変更される等の設計変更が行われているのが確認できる。また、車体縁の電飾も省略されている。
障害物検知センサー関連の外観上の差異としては、障害物接触バンパーの上にある測域センサーの設置位置が1次車より若干低くなっていること、前面窓下の突起部中央の穴が無いこと等が挙げられる。


06号車の自動ドアのタッチスイッチは竹中エンジニアリング製と思われるもので、「自動 PUSH 押して下さい」と日本語表記されたものがそのまま設置されている(係員操作用のスイッチのため、特に誰も気にしていない?)。


車内の様子(写真は05号車)。座席は固定クロスシートで、すべて進行方向を向いている。車両に姿勢制御装置はなく、各座席にはシートベルトが設置されている。 ドアは両側に設置。冷房も完備している。


最後尾の中央部の座席は後付けである(シートベルトも設置)。


車内の座席配置は縦4列×横2列(最後尾のみ横3列)。立席乗車は認められていない。


車内の操作盤(進行方向右側に設置)。基本的に係員が車外から操作するため、ボタンは非常停止ボタンとスタートボタンしかない(スタートボタンは通常乗客が押す必要はない)。なお、係員は車両に添乗せず、駅にのみ配置されている。


車内の諸元表記名板。韓国モノレール社(KMG)の社名表記で、最大定員:9人乗、最大荷重:585kg、製作年度:2018年と表記されている。最大定員と最大荷重は8人乗りから9人乗りに改造した際に上からステッカー貼付により書き換えられており、改造前は最大定員:8人乗、最大荷重:640kgとなっていた。車両の実際の製造会社は嘉穂製作所だが、同社の名前はどこにも記載されていない(他の韓国向けスロープカーも、基本的に銘板は韓国モノレール社の社名のみ記載されている。これは韓国内ではスロープカーの商流が韓国モノレール社経由となっている(嘉穂製作所は韓国モノレール社を代理店としてスロープカーを販売している)ためと思われる)。また、日本国内向けのスロープカーの嘉穂製作所の車両銘板には記載されている型式、製造番号の情報が韓国向けのものは記載されていない。


起点駅のクジラ博物館駅。ホームは3階にあり、乗降ホームが分離されている。ロッテリアが併設されている。


切符売り場。長生浦クジラ文化特区全体の運営は蔚山広域市南区都市管理公団が行っており、長生浦モノレールの乗車券販売業務等は同公団が代行(長生浦クジラ文化特区内の他の施設の入場券販売等と一括して実施)している。長生浦モノレールの乗車券だけでなく、長生浦クジラ博物館、クジラ生態体験館、4D映像館、蔚山艦(軍艦展示館)、クジラ文化村の入場券及びこれらのセット券も販売している。但し、長生浦モノレールとのセット券は無い。


クジラ博物館駅3階の乗り場兼待合室。


乗り場の様子。ガラス張りの自動ドアと、スロープカーのホームドア(APG)が設置されている。


クジラ博物館駅を発車するモノレール。
以下、モノレールの進行方向に沿って、沿線の様子を紹介する。


クジラ博物館を発車すると、右に大きく曲がる(写真奥のロッテリアがある建物がクジラ博物館駅の駅舎)。
地平から6m程の高さの高架軌道を行くモノレールは、観光客からも注目の的だ。


クジラのモニュメントの前を行く。


屋外展示されている捕鯨船「第6進洋号」の上を行くモノレール。第6進洋号は1985年まで捕鯨をしていた、韓国最後の捕鯨船とのことである。第6進洋号の高さがモノレールの軌道高さと干渉するため、第6進洋号の一部欄干を撤去したうえでモノレールの軌道が敷かれている。


長生浦クジラ博物館(写真左)の正門前を行くモノレール。長生浦クジラ博物館の周辺の広場は「クジラ文化広場」と名付けられている。


長生浦クジラ博物館の外観。長生浦(チャンセンポ)はかつて捕鯨が盛んに行なわれていたが、1986年に捕鯨が禁止。それ以来失われつつあった捕鯨関連の資料等を展示するために2005年5月31日に開館した、韓国唯一のクジラ博物館である。モノレールは当博物館の外周に沿って時計回りに周回する。


長生浦クジラ博物館の周辺にあるユッケジャン屋で昼食。その食堂の席からモノレールが行く姿を眺める(3~5分間隔で運行されているため、食べている最中も気になってしまうマニアの性(さが))。
当博物館の周辺には多くの食堂があるため、食事には困らない。


長生浦クジラ博物館周辺を行くモノレールからの前面展望。


長生浦モノレールは瓢箪状の線形で、長生浦ゴレ路(長生浦クジラ道路)を跨ぐ部分の前後は複線となっている。


上写真の区間を丘の上から俯瞰。


長生浦ゴレ路の上で離合するモノレール。


長生浦ゴレ路の横断部の複線区間で離合するモノレール。日本でも単線並列のスロープカーはあるが、ここは周回軌道のため進行方向が決まっている。ルートの都合上、左側通行である。


長生浦ゴレ路を渡り終えると、ここまでほぼ平坦だった軌道から一気に急勾配を駆け上がる。スロープカー(ラック・アンド・ピニオン駆動方式の斜面走行モノレール)でないと成しえない走行環境であり、まさにスロープカーの本領を発揮している。車両に姿勢制御装置がないため、上り勾配に差し掛かると乗客は背中に一気に重力を感じる。


上写真の急勾配を上る車両を後追いで撮影。


勾配の途中で軌道は再び左右に分かれ、単線となる。ここからクジラ文化村内を時計回りで周回する。


蔚山湾に停泊する船舶をバックに進む長生浦モノレール。


モノレールの車窓から紅葉に染まるクジラ彫刻公園を一望。


クジラ広場に鎮座するシロナガスクジラ(韓国語:大王クジラ)のモニュメントの脇を行くモノレール。


シロナガスクジラに食べられるモノレール?シロナガスクジラの口の位置と車両の位置を合わせると、このようなトリック写真も撮れる。


「五色あじさい庭園」の近くに位置する、モノレールの車両基地。


車両基地の脇の本線を行くモノレール。車両基地の内部構造は不明ながら、建屋の大きさと車両の大きさから推測すると横に2線あり、さらに各線に縦列で2両ほど留置できそうなスペースがありそうだ。


車両出入庫時は車両基地のシャッターを開け、トラバーサー式の軌道に車両を載せて車両を出入りさせる構造。トラバーサー部の構造をよく見ると、本線用の軌道に加えて車両基地内との出入用の軌道(車両基地内に格納)があるように見える。
一般人が乗車できるスロープカーで分岐があるものは日本には存在しないため、分岐構造が非常に興味深い。なお、嘉穂製作所によると、一般人が乗れないものであれば日本にも分岐構造があるスロープカーは存在するとのこと。


トラバーサー部分を横から見る。


車両基地の横を通過し、勾配を上ると、進行方向左側の車窓からは蔚山大橋(울산대교/読み:ウルサンデギョ)が一望できる。蔚山大橋は全長1,800m、中央支間1,150m、主塔高203m、桁下高60mの吊り橋で、2015年6月1日に開通した。


5D立体映像館駅のホーム跡。当駅は降車専用として開業したが、後に廃止された。


蔚山大橋や5D立体映像館をバックに進むモノレール。


蔚山湾とモノレール。


5D立体映像館の脇を過ぎると、勾配を下りた先にオレンジ色のクジラ文化村駅が見える。


捕鯨全盛期の1960~70年代の長生浦の町並みの様子を再現したゾーンである「長生浦 昔の村」(장생포옛마을/読み:チャンセンポイェンマウル)。昔ながらの家屋を再現したセットの奥を行くモノレールの姿は過去と現代の融合を感じる。


蔚山大橋の主塔をバックに、公園内の遊歩道に沿って進むモノレール。


クジラ文化村駅に接近。当駅で途中下車・再乗車が可能である。
なお、乗車券は当駅では発売しておらず、クジラ文化村駅を起点として一周したり、途中下車客以外がクジラ文化村駅からクジラ博物館駅まで乗車したりすることはできない。また、再乗車する客は残席がある便に限り乗車することが出来る。


クジラ文化村駅の駅舎外観と、駅へのアクセス道。ホームは2階にあり、階段と車椅子用エレベータを備えている。ホームにはホームドアや車両側の操作(ドア開閉・出発ボタン押下)を行う職員が常駐している。


クジラ文化村駅を発車するモノレール。写真左奥が「長生浦 昔の村」の入口。


クジラ文化村駅を発車するモノレールを「長生浦 昔の村」の家屋セット側から撮影。


「クジラに出会う道」の脇を行くモノレール。


クジラ文化村内の周回部を走破。勾配を下り始めると、先ほど上った軌道が近づいてくる。


勾配を下ってクジラ博物館駅へと向かう車両(写真手前)と、勾配を上ってこれから車両基地・クジラ文化駅を経由して周回する車両(写真左奥)。


再度、長生浦ゴレ路(長生浦クジラ道路)の上を渡る。


長生浦ゴレ路を渡ると終点のクジラ博物館駅はすぐ。


約21分かけて一周し、クジラ博物館駅に戻ってきた。
全区間の前面展望は下記の動画をご覧ください。


韓国・蔚山広域市に2018年に開通した長生浦モノレールの全区間前面展望。全長1,338mの周回軌道で、運行速度は70m/分(=4.2km/h)。路線の勾配は最小0度~最大18度(325‰)だが、車両に姿勢制御装置はなく、乗客はシートベルトの着用が必須である。 日本には存在しない周回軌道のスロープカーで、途中には車両基地も存在する。

クジラ博物館駅とクジラ文化村駅の間に、開業当初は降車専用の「5D立体映像館駅」があったが、現在は廃止されておりホームの跡が残っている。

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韓国・蔚山広域市に2018年に開通した長生浦モノレール。クジラ博物館とクジラ文化村を結ぶ全長1,338mの周回軌道を嘉穂製作所製の無人運転の9人乗りスロープカー(全6両)が運行する(軌道は韓国製)。
日本には存在しない、同一軌道上を複数車両が走行する構造のため、障害物検知対策として車両の前後に障害物接触バンパーが設置され、加えて車両前方に超音波センサー、測域センサー等も設置されているのが特徴である。また、周回軌道のため進行方向も非常時や車両基地内を除いて片方向のみである。

※スロープカーは日本では昇降機扱いであり、日本ではスロープカーを周回軌道で走らせることは法令上出来ない(周回軌道にすると昇降機ではなく遊戯施設扱いになる)。韓国ではそのような規制は適用されないため、周回軌道も可能である。

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