ソウル交通公社 初代3000系 347編成廃車陸送

1985年のソウル地下鉄3号線開通以来、37年間に亘って活躍してきた初代3000系が2022年9月30日を以て運行を終了した。

2022年10月29日未明、347編成(10両編成)のうち5両(3547・3647・3747・3847・3947)が紙杻車両事業所からトレーラーに載せられて搬出された。当編成は水西車両事業所所属の編成で、搬出に先立って2022年10月24日に水西車両事業所から紙杻車両事業所へ廃車回送されていた。2022年11月4日時点で残存する初代3000系は334編成と346編成のみ(いずれも引退済)であるが、これらも近日中に搬出されると思われる。

初代3000系とその同型車は1984年から1993年にかけて合計650両が製造され、3号線の他、2号線(1992年~2020年)や4号線(1985年~1995年)でも運行されていた。車両番号は3号線の車両は3000番代、2号線は2000番代、4号線は4000番代が割り振られ、これらは総称して「広幅型GECチョッパ制御電動車」と呼ばれる(GECチョッパ制御車自体は2号線の2000系にも存在したため、広幅型と区別するためにこちらは「直角型GECチョッパ電動車」とも呼ばれていた)。広幅型の名の通り、車幅が従来の韓国の通勤形電車よりも40mm拡大されており(3,120mm→3,160mm)、下部が膨らんだ車体断面が特徴である。イギリス・日本・フランス・アメリカ・スウェーデンの5カ国が車両の国際入札に応札し、1982年にイギリス・GEC社が落札。同社との技術提携をもとに大宇重工業が製作した(一部は韓進重工業が製作受託)。車両の前面形状は世界各国の電車のデザインを調査の上決定し、車両塗装も多数の案から選定する等、車両デザインに非常に力を注いだ車両として知られている(ワシントンメトロ1000・2000シリーズや、中央に窓無しの非常扉が配置された香港MTRの車両デザインの影響も受けている。そのため、従来の1号線・2号線の日本風の車両デザインとは一線を画すものとなった)。GEC製の電機子チョッパ制御装置を採用。また、韓国で初めてATC(自動列車制御装置)が搭載され、装置はアメリカのWestinghouse製である。この他、韓国の地下鉄では後に標準デザインとなった、ストラップ部がスプリング付きのつり革もこの車両で最初に採用された(スプリング付きの吊り手はロンドン地下鉄のものを参考にしたと言われている)。

初期車が法定耐久年限の25年に達した2009年より廃車が始まり、2009年に法定耐久年限が撤廃された後は延命措置が取られ、最後まで残った車両は最長で32年間運行された。但し、末期は主にラッシュ時限定の運用となっていた。また、2010年には先頭車化改造車が新たに9編成登場したが、こちらも2022年4月までに引退した。現役時代の写真も合わせて紹介する。




紙杻車両事業所(紙杻車両基地)に留置されている、ソウル地下鉄3号線・一山線の新旧車両。4号線の車両も見える。

隣接する商業施設のオープンテラスより


紙杻車両事業所の全景。手前にはループ線があり、車輪の偏摩耗防止のため編成の向きを適宜変えている(編成の向きは固定ではない)。


その車両基地の片隅に視線を移すと、トレーラーに搭載された5両の初代3000系を確認。




トレーラーに載せられた3547号車と台車。床下機器はすべて切断され、車体は平トレーラーに載せられている。




奥には3647号車も。


さらに奥には、先頭車の3947号車も確認。
これまでの日本での経験と勘から、もしかしたら今夜廃車陸送(搬出)があるかもしれないと予想し、一か八かで夜に再訪することとした。


夜22時過ぎ。再び車両基地に戻ってくると、入庫した3号線の車両が多く集っていた。
しかし、肝心の車両を載せたトレーラーはエンジンがかかっておらず、トラックの車内も真っ暗のまま。


車両基地の通用門も閉まったままだ。しかし、まだ交通量が多いし、日本の例からしても深夜に行うのではないか?
僅かな希望を託して待ち続けることにした。


静寂な車両基地の中に止まったままのトレーラー。
この状態のまま3時間以上待ち続けた。


日付も変わり、終電もとっくに行ってしまった。気温もどんどん下がり、寒さで体も震える。
もう諦めたほうが良いかもと心が折れそうになってきたその時、エンジンの音が聴こえ、トレーラーがゆっくりバックしてきた。


ヘッドライトを眩しく輝かせて現れたトレーラー。
自分を信じて待ち続けて本当に良かった。久々に心の底から感動。
寒さも一気に吹っ飛んだ。


開かずのゲートもついに開門。


廃車車両を積載したトレーラーが列を成して現れた。
ついに待ちに待ったその時が来た。


3547号車(T1車)を積載したトレーラーを先頭に出発。
なお、少なくとも今回の陸送時は日本のようにトレーラーの前後に先導車・後導車はおらず、トレーラー単体での走行であった。




続行で出発する3747号車(M車)。




さらにその続行で出発する3647号車(T車)。


3547・3747・3647の順に、3両を載せたトレーラーが連なって深夜の幹線道路(三松路)を走る。




信号が変わるのを待って、続いて出てきたのは先頭車(Tc)の3947。


日中の車両基地内観察時に、車両が後ろ向きに積載されていることは分かっており、そのことを念頭に立ち位置を決めた。
この日搬出された唯一の先頭車のため、必死にシャッターを切り続けた。




特徴的な顔が街灯でライトアップされる。
3号線でのラストランには間に合わなかったが、最後の最後に立ち会えて本当に良かった。
(ソウル交通公社に社名変更後に初代3000系が運行する機会はほとんど無かったため、非常扉のロゴマークがソウル交通公社に変更された初代3000系を見るのは、私にとって最初で最後であった)




続いて台車を4台積載したトレーラーが後を追う。


最後に車両基地を出発する3847(M'車)。他の車両と同様、屋根上の冷房装置は撤去され、さらにパンタグラフ2基も撤去されている。この夜は5両を以て搬出は終了し、車両基地の通用門も再び閉じられた。


走り去っていく3947。


3947、台車、3847の順にトレーラーが隊列を組んで進む。


안녕히 가세요(さようなら)。
統一路を右折して、姿が見えなくなるまで見送った。


現役時代の347編成(左)。

水西車両事業所にて(許可を得て撮影)


2022年9月30日を以て引退した、ソウル地下鉄3号線の初代車両。2022年10月24日に水西車両事業所から紙杻車両事業所へ廃車回送された347編成(10両編成)のうち、5両が2022年10月29日の未明に解体業者へ陸送された。

4K Video


■初代3000形(広幅型GECチョッパ制御電動車)の記録

ソウル地下鉄公社時代の初代3000系。非常扉の社紋が地下鉄公社時代のものである。
319・320・334・335・345~348の8編成は2010年までに行先表示器がLEDに交換された。
(なお、写真の345編成は、後に列車番号表示もLED式に交換された(後述))

大谷にて


ソウルメトロ時代の過渡期の姿。社紋はソウル地下鉄公社のままだが、下の文字は「ソウルメトロ」となっている。
(後に社紋もソウルメトロのものに交換)

大谷にて


ソウルメトロのロゴマークに変更後の姿。

紙杻にて


列車番号表示がLEDに更新された後の345編成。
列車番号表示のLED化が行われたのはこの編成が唯一であった。


紙杻車両事業所にてKORAIL3000系と並ぶ、ソウルメトロ時代の初代3000系。

許可を得て撮影


当車両の特徴である、前倒し式の非常扉を展開したところ。
(最大まで展開するとさらに倒れ、スロープが出来る)

紙杻車両事業所にて(許可を得て撮影)


非常扉を車内側から見たところ。緑色の部分がスロープとなる。非常扉の展開・格納は手動のハンドルを回して行う。

紙杻車両事業所にて(許可を得て撮影)


運転台。ツーハンドルタイプで、左手側がマスコン、右手側がブレーキハンドル(写真はブレーキハンドルが取り外された状態)。
運転台は進行方向右側にある。

紙杻車両事業所にて(許可を得て撮影)


前面の方向幕。
(方向幕回転の様子は下に掲載した動画参照)


行先表示器の駅名対照表。

紙杻車両事業所にて(許可を得て撮影)


車内の様子。写真は不燃化改造前の姿(天井のLCDは2002年頃に追加設置され、2002年の日韓ワールドカップの際は中継放送も行われた)。
車内から見ると、車体が上に絞られている構造がよく分かる。




1次車として導入された303編成の、大宇重工業1984年製作の銘板。


法定耐久年限(25年ルール。2009年の鉄道安全法改正により当規程は廃止)が迫った車両は内装は更新されず、モケットのみが不燃性のものに交換された。


ドア周り。


不燃化改造が全面的に施された車両の内部。座席はステンレス製になり、内装材もほぼ全交換された。


不燃化改造前後の天井の比較(上が改造前、下が改造後)。中央にラインフローファンが新設されている。




2009年~2010年に1次車(1984年~1985年)が廃車になった際、中間に組み込まれていた経年の若い車両を寄せ集め、先頭車化改造して再組成した編成が登場した。2010年より9編成が登場(316~320・341~344編成)。当初は5年程度の使用を想定していたが、最終的には延命措置のうえ、最長12年間運行された。


先頭車化改造車の運転台。

水西車両事業所にて(許可を得て撮影)


東湖鉄橋を渡り、玉水駅に入線する初代3000系。


東湖鉄橋の上で離合する初代3000系。
なお、助士席側に掲示された列車番号を見ても分かる通り、日本と同様に上り列車(韓国語で「上行」)の列車番号は偶数、下り列車(下行)は奇数である。

玉水にて


玉水駅にて離合する。
かつては当たり前のように走っていた初代3000系はいなくなり、さらに現在は3号線全駅のホームにスクリーンドアが設置されたため、このような写真を撮ることも出来なくなった。


急勾配を上り玉水駅に入線する水西行き。


一山線区間を走る。

元堂~花井にて




忠武路駅に入線する。
3号線の顔として長らく活躍した初代3000系。たくさんの想い出をありがとうございました。


ソウル交通公社3000系(チョッパ制御車)は、韓国の地下鉄車両で初めて前倒し式の非常扉を採用した車両である。非常時は扉をスロープとして車外に脱出できる。

紙杻車両事業所にて許可を得て撮影。


ソウル交通公社3000系(チョッパ制御車)は先頭車の前面に幕式の行先表示器が設置されている。

紙杻車両事業所にて許可を得て撮影。



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