ベトナム国鉄元 ソウルメトロ2000系

Tweet

首都ハノイと中国との国境を結ぶ優等列車の客車として2015年に再デビューした元ソウルメトロ2000系。

ソウルメトロ2000系は韓国のソウル地下鉄2号線の車両として1980年〜1994年に664両(10両編成62本、4両編成5本、6両編成4本)が製造された。うち、1982年までに製造された編成(14本)と、それの増結(4両→6両→10両編成化)のための車両が抵抗制御、1983年以降に製造された編成が電機子チョッパ制御である。製造メーカーは現代精工・大宇重工業・韓進重工業及びセミノックダウンとして日本車両。車両寸法は長さ20,000mm×幅3,120mm×高さ3,750mm(冷房装置上面の高さは4,170mm)。最高速度は110km/h。車体は鋼製。

2005年より法定耐用年数に達した車両(韓国では電車の法定耐用年数は25年と定められている。但し、現在は条件を緩和し、検査を合格すれば25年以上でも使用可)から廃車が進められ、2008年には1983年製の電機子チョッパ制御の編成も廃車された。廃車になった編成のうち、6両→10両編成化のため1990年以降に製造された車両は他編成へ転用されたが、1986年に4両→6両編成化のために製造された車両(付随車)は当時法定耐用年数以下(製造から22年)であったものの廃車となった。このうち、1986年製の中間付随車6両(2222、2322、2225、2325、2233、2333)が廃車後、ベトナムへ譲渡されることとなった(先頭車は譲渡されず)。韓国の中古車両が海外で再利用のため譲渡されたのは、この6両が初である(その後、セマウル号のステンレス製客車がイラン国鉄へ譲渡された)。

この車両は当地では通勤形電車としてではなく、ハノイのGia Lam(ザーラム/嘉林)〜Ha Long(ハロン/下龍)間164kmを結ぶ優等列車「HALONG EXPRESS」(当車両デビューにあわせて新設)の豪華客車として使用されることとなり、大規模な改造が施された。主な改造箇所は以下の通り。

・座席をロングシートから集団見合式のリクライニングシートに変更(2233号車を除く)
・既存の扉を使用中止(閉鎖)し、車端部に乗降用ドアを新たに設置
・水洗式トイレ・洗面台の設置(床下に水タンクも新設)
・大型液晶テレビの設置(各車両2台、2233号車は1台)
・客室へのカーテンの設置及びそれに伴う網棚の設置向き反転(2233号車は網棚撤去)
・吊り革の撤去
・連結器及び貫通幌の交換(連結器は密着連結器から自動連結器へ交換(周囲に緩衝器付きのもの)、貫通幌は両端を車両に接続するものからゴム製の筒を密着させるものに交換)
・冷房装置の削減(各車両3台→2台)
・側面行先表示部を閉塞(完全に埋めている)
・発電機・カフェスペースの設置(2233号車のみ)

一方で、車体の塗装はソウルメトロ時代のままとされ(現地にてあえてソウルメトロカラーで再塗装された)、既存のドアも閉鎖しただけでドア自体は残っており、ソウルメトロ時代の面影を強く残している。なお、運行する区間(Gia Lam〜Kep(ケップ/双)〜Ha Long間)は当初から標準軌(メーターゲージとの三線軌条)で敷設されており、車両側・軌道側の改良は特に行われていない。

2009年4月10日より1日1往復で営業運転を開始した(往路:Gia Lam 7:05発→Ha Long 12:00着、復路:Ha Long 15:00発→Gia Lam 20:05着)。当時の列車の運営はベトナム国鉄本体ではなく、当車両の輸出を手掛けた韓国の(株)東林コンサルタントの現地法人の東林鉄道輸送(株)が行い、同社がベトナム国鉄出身の乗務員・職員等約30名を雇用して運行する等の力の入れようだった。しかし、この列車はハロン湾への観光客輸送を狙ったものであったものの、元々ハロン湾へのアクセスはバスが圧倒的に主流であり、所要時間もバスの方が1時間近く早いため(バス:約4時間、「HALONG EXPRESS」:約5時間)、乗車率は非常に低いままで、運行開始から僅か約1ヶ月で早くも運行休止に追い込まれた。

その後、活躍の場を失った6両はGia Lam工場にて長年留置(放置)されて最早復帰は絶望的と思われた。しかし、運用離脱から6年も経った2015年に再整備が行われ、2015年5月29日よりGia Lamと中国との国境であるDong Dang(ドンダン/同登)の間157kmを結ぶ列車として奇跡の再起を果たした。2015年5月29日〜2015年10月21日は2往復が設定され(列車番号:HDR1〜HDR4)、2015年10月22日からは一時的に運用離脱した(車両修理のため)が、2015年11月11日より再び同区間を1日1往復する運用に入っている。運行ダイヤは2016年2月現在、以下の通り。

5HD2列車:Dong Dang 6:45発→Gia Lam 10:30着
5HD1列車:Gia Lam 11:30発→Dong Dang 15:15着
(途中停車駅:Gia Lam側から順にTu Son、Bac Ninh、Bac Giang、Bac Le、Lang Son)

ソフトシート車のみで構成されており、運賃は全区間で89,000ドンである。

この車両の輸出プロジェクト当時(2008年・2009年)のニュース記事(参考:こちら(韓国語)及びこちら(韓国語))を見返すと、このプロジェクトには以下のような壮大な計画があったことが分かる。

・この車両6両は、電化区間が存在しないベトナムにおける電車の安全性・適合性を確認するプロトタイプ車両であり、「HALONG EXPRESS」は電車運営のモデル事業である。
・この6両が順調にいけば、ベトナム国鉄ドンダン線等で電化・複線化事業を実施し、電車運営のノウハウをベトナム側に伝授。ベトナムへの韓国の鉄道事業進出を図る。
・「HALONG EXPRESS」はこの編成を含め6両編成10本(60両)に増やし、追加で韓国の中古車両を導入する(2010年のハノイ遷都1000周年までに順次増発)。
・この他にGia Lam〜Dong Dang間にも4両編成1本を運行する。
・韓国の電車運行の優秀性を立証し、ハノイ都市鉄道5号線(全長33.5km、車両4両編成40本)プロジェクトを獲得する。

しかし、残念ながら前述のとおり「HALONG EXPRESS」が不調で終わったため、この計画は腰砕けに終わってしまい、2016年2月現在でもベトナム国鉄ドンダン線の電化・複線化やハノイ都市鉄道5号線の工事は行われていない。車両輸出も「プロトタイプ」扱いの6両に留まっている。ただ、韓国の通勤形電車唯一の海外譲渡車と貴重な存在であるため、今後の末永い活躍に期待したい。
なお、奇しくもベトナムの対岸のフィリピンでも同じく元通勤形電車を客車化した元JR東日本203系が活躍している(こちらは引き続き通勤形車両として使用)。

※2016年4月頃より再度営業運転を休止している模様です。ご訪問の際はベトナム国鉄の時刻表等で最新の状況をご確認ください。(2016年6月追記)

関連ページ:「ソウル地下鉄2号線 乙支路循環線」

A形(ソフトシート車) 2222 2322 2225 2325 2333
CVPD形(職務・電源車) 2233
※2016年2月現在


「ベトナムの鉄道トピックス」に戻る

Tweet