バンコクMRTパープルライン
Bangkok MRT Purple Line



MRTパープルラインはクロンバンパイ〜タオプーン間16駅20.9kmを結ぶ路線である(非営業区間を含む本線総延長:22.3km)。路線の正式名称はチャローン・ラチャタム線。全区間地上(高架)、全区間複線(左側通行)で、第三軌条方式による直流750V電化。軌間は1,435mm(標準軌)。保安装置はATP・ATO。車両基地はクロンバンパイ駅の東側に隣接しており、洪水対策で車両基地も高架上にある。2016年8月6日に現営業区間が開通した。

当路線のシステム一式は丸紅・東芝・JR東日本の企業連合が受注した。鉄道システム建設の他、10年間の車両・地上設備のメンテナンスも担う。鉄道システム建設のため、丸紅と東芝の共同出資で特別目的会社「丸紅東芝合弁会社(MTJV)」が設立され、またメンテナンス業務のため、丸紅・東芝・JR東日本の3社の共同出資で「Japan Transportation Technology (Thailand)」(JTT)社が設立されている。当路線は日本のメーカーと鉄道事業者が一体となり、海外で鉄道システム納入及びメンテナンス業務を一括受注した初のケースである。また、バンコクの都市鉄道で初めて日本製車両が導入された。なお、信号システムの規格や車両・設備の安全基準等は先に開業した路線(BTS各線及びMTRブルーライン、ARL)の影響により欧州規格が採用されており、信号システム自体はBombardier製である(MTJV社が元請け、Bombardierが下請け)。信号システムはCBTCを採用している。

車両は総合車両製作所(J-TREC)製で、2015年〜2016年に2M1T(Mc1-T-Mc2)の3両編成21本(63両)が製造された。車体はステンレス製で、同社の「Sustina」ブランドを名乗るステンレス車両としては初の海外輸出仕様である。車両寸法は長さ21,500mm(先頭車は22,140mm)×幅3,160mm×高さ3,920mm。設計最高速度は100km/h、営業最高速度は80km/h。車両形式名はないが、車両番号は両先頭車(Mc)が1000番台、中間車(T)が3000番台となっている(第1編成ならば車両番号は順に1001-3001-1002、第2編成ならば1003-3002-1004、第3編成ならば1005-3003-1006、・・・という法則で付番されている)。車両の基本設計はJR東日本E231系をベースとしているが、国際規格(≒欧州規格)の安全基準を満たすため、日本の3倍の衝突耐性や床材の耐火性強化が図られている。また、「かっこいい形に」との客先要望により当初の車両デザイン案より大幅にデザインが変更されており、最終的に先頭部分の半流線形化、客用扉の外吊り化、冷房装置を含めた屋根のフラット化、車内の座席袖仕切りの大型ガラス化、スタンションポールの三叉化等の仕様変更が行われており、E231系をベースにしたという面影はほとんど感じられない。車両デザインはGKインダストリアルデザインが担当した。

当初、シリキット王妃の84歳の誕生日に合わせて2016年8月12日に開通予定であったが、6日前倒しで開通した。開業日時点では他の路線と接続していないため、タオプーン〜バンスー間で無料シャトルバス、バンソン〜バンスー間で6:30〜9:30及び16:30〜20:30の時間帯でタイ国鉄の無料シャトル列車が運行されている(タオプーンまでブルーラインが延伸開業するまでの暫定措置)。都心へのアクセスが不便であることと、バスと比べて運賃が割高であることから利用客数が当初計画を大幅に下回り、2016年9月より運賃を値下げした。さらに、2017年3月4日からは土日に限り運賃が15バーツ均一に値下げされた。

現在、タオプーン〜ラットブラナ間(19.8km)の延伸計画がある。

関連ページ:「バンコクMRT パープルライン−車両陸送記録」

参考文献:総合車両製作所「総合車両製作所技報 第4号」
       今津直久「鉄道ピクトリアル」No.921(2016年9月号) P.113-115「バンコクの新しい都市鉄道 パープルラインに乗る」(電気車研究会)
       朝日新聞2016年8月17日〜19日連載記事「パープルライン(上・中・下)」(「けいざい+ 新話」内)

(路線図:管理人制作)

離合するパープルラインの車両。

ウォンサワンにて
3両編成21本の全63両が総合車両製作所(J-TREC)で製造された、パープルラインの車両。将来の4両編成化及び6両編成化に対応している。

ウォンサワンにて
クラスンサー・タラナス〜スーンラチャカージャワッ・ノンタブリー間を行くパープルラインの列車。
俯瞰気味に車両を眺める。両先頭車の屋根にはCBTCのアンテナが横並びで2台設置されている。

クラスンサー・タラナス〜スーンラチャカージャワッ・ノンタブリーにて
スーンラチャカージャワッ・ノンタブリー駅の東側でラタナティベット通りを跨ぐ。スーンラチャカージャワッ・ノンタブリー〜サムエーク・バンヤイ間では多くの区間がラタナティベット通り沿いに軌道が敷かれている。
サパーン・プラナンクラオ(=プラナンクラオ橋)〜サイマー駅間ではチャオプラヤ川を橋で横断する。
バンラックノイ・ターイット駅付近を行くパープルライン。パープルラインの高架建設と併せて、ラタナティベット通りも一部区間に陸橋が整備された。

サイマー〜バンラックノイ・ターイットにて
サムエーク・バンヤイ駅付近を走行する上下線の列車。
両先頭車に設置されている側面行先表示器(中間車は未設置)。3色LED式で、タイ語・英語を横スクロールで表示する。
乗務員扉の上部に記されている車両番号と、「Designed by GK Industrial Design」の文字。車両のデザインを担当した会社名をこの箇所に表記するのは、BTSの長春軌道客車製車両に準じている。
車内の様子。
座席は他路線と同様にFRP製で、ラインカラーにあわせて紫色である。片持ち式であるが、蹴込み部にカバーが設けられている。年中高温多湿のため、暖房装置は省略。
側窓は固定窓で、窓枠の形状はJR東日本の209系以降の通勤形車両で採用されているものに類似している。
客用扉。開口幅は1,400mm、高さは1,900mm。各ドアの鴨居部にはLCD式案内表示器が設置されている。
ドア上のLCD式案内表示器。タイ語と英語で交互表示する。路線図表示は、既に通過した駅を赤、これから走行する駅を緑で表示する。画面上部には次駅、行先、次駅開扉側を表示する。
扉脇にはドアランプが設置され、閉扉予告時に赤く点灯する。また、同じタイミングでブザーが鳴動する(その後の閉扉動作時は無音、ドアランプ無点灯)。
側窓上には22インチのLCDが設置されており、広告や次駅案内を放映する。
防犯カメラは各車両に4台ずつ設置。
照明はLED式で、半間接照明を採用している。
貫通路。幅1,400mmで、他路線と同様に貫通扉はない。
車端部の車両製造メーカー・電装品メーカー表記及び車両番号表記。写真は先頭車(Mc車)のもの。
J-TRECの「Sustina」ブランドのマークは、海外向け車両では「i」部分が日の丸をイメージしたものとなっている。このマークが使用された車両はこのパープルライン向け車両が初である(日本国内向けの「Sustina」ブランドの車両は、同箇所が地球儀をイメージしたものである)
中間車(T車)の車端部の車両製造メーカー・電装品メーカー表記及び車両番号表記。
パープルライン車両のラストナンバー(2016年時点)である第21編成1042号車。2016年製。
乗務員室仕切り。他路線の車両と同様、窓はない。
乗務員室内部。中央に非常脱出口が設けられている。
第6編成の車両別外観。
1012号車(Mc)。屋根に冷房装置とCBTCアンテナ、前面・側面に行先表示器が設置されている。
3006号車(T)。側面の行先表示器は省略。
1011号車(Mc)。編成反対側のMc車(1012号車)と基本仕様は同一。
クロンバンパイ駅の外観。現在開業している区間は全駅が高架駅で、多くの駅が道路上に設けられている。
クロンバンパイ駅の出入口。洪水による浸水被害を防ぐため、各駅の出入口やエスカレーターは地面より数メートル上に設けられている。
タオプーン駅の改札口。ブルーラインと同様、ゲート型金属探知機および警備員の目視によるセキュリティチェックを行っている。
クロンバンパイ駅の改札口。
各駅には日本のODA(政府開発援助)によって建設されたことを示すプレートが設置されている。プレートはタイ語・日本語・英語の3ヶ国語表記。
クロンバンパイ駅に停車中の列車。全駅に可動式ホーム柵(APG)が設置されている。ホーム有効長は6両編成分あり、可動式ホーム柵も既に6両分設置されている。ホームドアはシンガポールのST Electronics製。
タオプーン駅のホーム。パープルラインは全駅島式ホームである。
クロンバンパイ駅の駅名標。
クロンバンパイ駅、サムエーク・バンヤイ駅、バンラックノイ・ターイット駅、エークノンタブリー1駅の4駅にはパークアンドライド用の立体駐車場が隣接している。

サムエーク・バンヤイにて
クロンバンパイ駅の東側に隣接している車両基地。高架上にある。

タラート・バンヤイ〜クロンバンパイにて(車内より撮影)
終点のクロンバンパイ駅の北側の引上げ線(Y線)上に停車中の列車。当駅は乗降ホームが分離されており、当駅止まりの列車は一旦引上げ線に入線してから折り返す。本線は出入庫線との接続のため、数百メートル先まで延びている。
バンソン駅を出発する、タオプーン行きの列車。パープルラインは全駅島式ホームで、ホームには可動式ホーム柵(APG)が設けられている。

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1駅間の車内の様子。車両はJ-TREC(総合車両製作所)製。ドア上にはLCD式案内表示器、窓上には広告等を放映するLCDが設置されている。閉扉前にはブザーが鳴り、ドアランプが光る。全区間高架で眺望は良い。 IGBT-VVVF制御で、制御装置は東芝製。

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クラスンサー・タラナス〜スーンラチャカージャワッ・ノンタブリー間を走行する、クロンバンパイ行きの列車。

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スーンラチャカージャワッ・ノンタブリー〜クラスンサー・タラナス間を走行する、タオプーン行きの列車。

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クラスンサー・タラナス〜スーンラチャカージャワッ・ノンタブリー間を走行する、上下線の列車。

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ラタナティベット通り沿いに東西に走るパープルライン。

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行先表示器は3色LEDで、タイ語と英語を交互にスクロール表示する。タオプーン駅にて。

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普通乗車券(表/裏)
ブルーラインと共通の、直径3cmのICトークン式。運賃は対距離区間制。
自動券売機
タッチパネル式で、目的地の駅をタッチする。英語表記にも切り替え可能。100バーツ以下の紙幣と硬貨が使用できる。
自動改札機
入場時はICカード読取部にトークンまたはICカードをタッチする。出場時はトークンを挿入口に投下するか、ICカードをタッチする。
装置はシンガポールのST Electronics製。
バンスー〜タオプーン間シャトルバス
タオプーンまでのブルーライン延伸開業までの暫定措置として、バンスー〜タオプーン間で運行されている無料シャトルバス。
バンスー〜バンソン間シャトル列車
タオプーンまでのブルーライン延伸開業までの暫定措置として、6:30〜9:30及び16:30〜20:30の時間帯で運行されているタイ国鉄の無料シャトル列車が運行されている。
車両は専らASR形が使用されている。
バンスー〜バンソン間シャトル列車のサボ
区間表示は「バンスー - バンソン」。MRTAとタイ国鉄(SRT)のロゴも書かれている。
シャトル列車車内
元優等用車両であるため、グレードが高い。

関連ページ:「バンコクMRT パープルライン−車両陸送記録」

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