タイ国鉄 「SRT Prestige」貸切乗車

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タイ国鉄の特別車両「SRT Prestige」は、元JR西日本の12系・14系・24系客車の一部車両を団体専用車両として改造したものである。2015年に登場し、2016年より団体専用列車、または定期列車・臨時列車に増結して運行している。車体の塗装は紺色に金帯が入ったスタイルで統一されており、車内は車両ごとに改造内容は異なるが、いずれも木目調とし、豪華な内装に一新されている。余剰となっていた車両を活用し、JR九州の「ななつ星in九州」を参考にゆっくりと贅沢な旅ができるよう開発したとのことである。

2018年11月24日、タイ国鉄909列車及び910列車(バンコク/フアランポーン〜ナムトク)に日本人鉄道愛好者の方々による団体貸切で「SRT Prestige」が連結され、乗車する機会を得た。主催者はじん様(https://twitter.com/ZINHs)で、SNS(Twitter)上で参加者を公募されていたため、ありがたく参加させて頂いた。当日の様子を紹介する。

主催者のじん様、沿線撮影で多大なるご協力を頂いたアジアネットワーク様をはじめ、お世話になった方々に心からお礼申し上げます。
また、オンライン上(サイトやSNS等)で以前からお世話になっている数多くの方々とも初めてお会いすることができ、思わぬ出会いに感激しました(世界は狭いと感じました)。
おかげさまで当日はとても濃密な1日となりました。皆様本当にありがとうございました。

2018年11月24日午前6時、バンコク・フアランポーン駅(クルンテープ駅)の両ホームに並ぶ、「SRT Prestige」車両。左側はパーサックチョンラシットダム(Pa Sak Jolasid Dam) 行き、そして右側は我々が乗車するナムトク行きの910列車である。
「SRT Prestige」連結の営業列車がフアランポーン駅に2編成も並ぶことは滅多にないため、非常に貴重な光景である。
ナムトク行きの910列車の最後尾に連結された、展望車仕様のARS.221。その隣に連結されたARS.231の2両が今回の団体での貸切車両である。
フアランポーン駅のドーム状の屋根の下に停車しているARS.221。当車両は非稼働の際にはフアランポーン駅の1番線に停泊していることが多いが、こうして車内に電気が灯り営業用として使われている姿を見るのは初めてであり、尚且つこれから乗車できるというのであるから感動である。
今回乗車した2018年11月24日のタイ国鉄909列車及び910列車には、我々の団体が貸し切った「SRT Prestage」2両の他にさらに別団体が貸し切った「SRT Prestage」2両が繋がり、さらに一般車両(2等車)として元JR西日本の14系・24系客車が3両組み込まれ、全客車9両のうち7両が元JR西日本の車両という豪華な編成であった。
以下、今回の編成に組み込まれたJR西日本の車両を紹介する。

カンチャナブリーにて
ARS.221。元JR西日本オハネ14 33。1972年日本車両製、最終配置は宮原総合運転所。2004年にタイ国鉄譲渡、2010年に展望車に改造された。
ARS.221の展望室内。
展望室内から見た最後尾の様子。開放式展望デッキに出ることも可能。
開放式展望デッキ側から見た展望室。
ARS.221の車内には寝室が3室あり、そのうちの1つは広々とした空間にベッドが2つ配置された豪華な寝室となっている。この寝室のみ専用のトイレ・シャワー室も備える。
残りの2部屋は2段式寝台の個室で、両部屋間にあるドアを開けると、4人部屋としても使用することができる。
ARS.231。元JR西日本スハフ12 1009。1971年新潟鐵工所製、最終配置は後藤総合車両所。1997年にタイ国鉄に譲渡された。食堂車に改造されている。
妻面には「日本国有鉄道」と「新潟鉄工所 昭和46年」の銘板が今でも残り、しかも文字はわざわざ金色で色差しされている。
ARS.231の車内。食堂車扱いで、ボックスシートが並んでいる。
厨房との境目にあるカウンター。
厨房内部。調理をするためのコンロや水道が設置されている。今回の貸切時には非稼働。
ARS.111。元JR西日本オハ14 74。1973年新潟鐵工所製、最終配置は岡山電車区。2004年にタイ国鉄に譲渡された。
ARS.111の車内。座席を交換し、床敷物やカーテン、天井等もリニューアルされているが、車内の基本的な構造は原型を留めている。
ARS.131。元JR西日本スハフ12 4。1969年新潟鐵工所製、最終配置は京都総合運転所。1997年にタイ国鉄に譲渡された。
ARS.131の車内。半室が座席となっている。
残りの半室はカウンターとカラオケルームが設置されている。
以下3両は併結されていた一般車両(2等車)。

ANS.240。元JR西日本オハネフ25 301。1978年新潟鐵工所製、最終配置は下関車両センター(寝台特急「あさかぜ」「瀬戸」等に使用)。2008年にタイ国鉄に譲渡された。
なお、オハネフ25形300番台(全3両)は6名分の寝台を撤去し、その部分に荷物室を設けた車両で、写真右側の客用扉より右側が改造部である(客用扉自体も移設されており、元客用扉の部分はステップを撤去したうえで荷物用の扉となっている)。
ASC.103。元JR西日本オハ14 76。1973年新潟鐵工所製、最終配置は岡山電車区。2004年にタイ国鉄に譲渡された。
ASC.108。元JR西日本オハフ15 21。1973年日本車両製、最終配置は岡山電車区。2004年にタイ国鉄に譲渡された。
ここからは当日の乗車記。
約15分遅れでフアランポーン駅4番線を発車した909列車。最後尾のARS.221の開放式展望デッキよりフアランポーン駅を眺める。
フアランポーンの客車区の脇を通過する。この光景が見られるのも、バーンスー駅新駅開通までのあと数年(新駅完成後はフアランポーン〜バーンスーは廃止となる予定)。
バーンスー駅を発車。左に見えるのが新駅。ホームは2層式で、下層が在来線、上層が高速鉄道及び都市鉄道の予定である。
チャオプラヤ川に架かるラーマ6世橋(全長441m)を渡る。
ナコーンパトム駅で40分間の停車。この909列車は観光用の臨時列車であり、一般客は停車時間中に市内の観光に出掛ける(一方、我々は車両の観察にいそしむ)。
ナコーンパトム駅に連なる、4両の「SRT Prestige」車両。
ナコーンパトム駅から先、南線は単線となるが、現在複線化工事が進められている。
ノーンプラードゥック駅通過時には、A.S.社の元JR北海道DD51形が車内から見えた。
ナムトク線の後方展望。
サパーンクウェーヤーイ(クウェー川鉄橋)駅に到着。約35分間停車。
サパーンクウェーヤーイ(クウェー川鉄橋)駅の駅名標。英語表記は「River Kwai Bridge」。
クウェー川鉄橋。1943年に完成し、泰緬鉄道で最も難工事の場所であったと言われる。曲弦ワーレントラス橋梁で、中央の平行弦トラス橋梁部分は爆撃で破壊されて修復された箇所である。映画「戦場にかける橋」で一躍有名となった。
列車が来ない時間帯は観光客が鉄橋上を往来している。
サパーンクウェーヤーイ駅に展示されているC56 23号機。左隣にSRT Prestige車両が見える。
サパーンクウェーヤーイ駅発車間際の様子。ARS.221の開放式展望デッキは終始人気。デッキには著名な鉄道ユーチューバーのスーツさんの姿も。
クウェー川鉄橋を渡る列車からの後方展望。多くの観光客がこちらを向いて撮影しており、まるでスターになった気分?
チョンカイの切り通し(写真左奥)を通過。人力で4メートル幅に岩山を削る工事が行われた難所で、1943年2月に完成した。右側はクウェー・ノーイ川。
ナムトク線で最も風光明媚なタムクラセー橋(アルヒル桟道橋)を渡る。クウェー・ノーイ川に沿って岸壁すれすれに作られた木造橋である。岸壁の一部は鉄道建設時に日本軍が爆破し、凸凹となっている。
フアランポーン駅を発車して5時間半、終点のナムトク駅に到着。
ナムトク駅のホームは勾配上にあり、写真左上の平坦上に留置線がある。
留置線に回送するため、一旦ナムトクサイヨークノーイ駅方面に引き上げた後、展望車(ARS.221)を先頭に推進運転で進んでくる。
留置線に入線する回送列車。
留置線で2時間弱、折り返しまで待機。
留置線の脇には牛が放牧され、のどかな風景が広がっていた。
ナムトク駅からは有志で車(ソンテウ)をチャーターし、タムクラセー橋(アルヒル桟道橋)まで先回り。機関車の次位に「SRT Prestige」車両を4両繋ぎ、木造橋を渡る910列車を撮影できた。
クウェー・ノーイ川に沿って、機関車含めて10両編成の長編成がタムクラセー橋(アルヒル桟道橋)をゆっくりと走る。絵に描いたような素晴らしい景色を見ることが出来、心から感激した。
カンチャナブリーに停車中の910列車。
復路は展望車が機関車の次位となる。
日も暮れて、夜の南線をバンコクに向けて快調に走っていく。寝台車(ANS.240)の折り畳み座席に腰掛けると、映画「おもひでぽろぽろ」のワンシーンを思い起こすような、懐かしい景色が蘇ってきた。不定期ながら、日本の「ブルートレイン」の営業列車に乗れる最後の地、タイ国鉄。末永く走り続けてほしいものである。
ほぼ定刻でフアランポーン駅6番線に到着。まるで夢のような、充実した1日が終わった。
お世話になった方々に改めて深くお礼申し上げます。
2018年11月24日、タイ国鉄909列車(バンコク/フアランポーン→ナムトク)の最後尾に連結された特別車両(SRT Prestige)の展望車(ARS.221/元オハネ14 33)から撮影した、全区間の後方展望。

タイ国鉄最大の駅であるフアランポーン駅を発車し、バーンスー(Bang Sue Junction)駅までの間は多くの上り列車と離合する。当区間はバーンスー駅新駅が開通した後は廃止となる予定。バーンスー駅周辺は高架化工事、新駅建設の真っ最中である。バーンスー駅からは南本線へと分岐し、バンソン駅を出るとチャオプラヤ川に架かるラーマ6世橋(全長441m)を渡る。
ノーンプラードゥック(Nong Pla Duk Junction)駅まで南線を走り、同駅から先はナムトク線に入る。南線はナコーンパトム駅から複線化工事が進んでいる。
ナムトク線の名所であるクウェー川鉄橋(戦場にかける橋)やタムクラセー橋(アルヒル桟道橋)を通過して、終点のナムトク駅に到着する。
ナムトク線で最も風光明媚なタムクラセー橋(アルヒル桟道橋)を渡る。橋の上は制限速度10km/hで走行する。この日は客車9両のうち元JR車が7両も連結され、うち紺色の4両は「SRT Prestige」と呼ばれる貸切専用の特別車両が連結された豪華な編成であった。
ナムトク線カンチャナブリー駅に入線する、ナムトク発バンコク/フアランポーン行きの910列車。

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